第214話・見張り03


特別第六課の女性職員が見守る中、メイド姿の詩音が目標である二人の

テーブルに向かう。


「いらっしゃいませ、お嬢様♪」


営業スマイルで飛縁魔ひのえんまと雪女―――

人間の姿の彼女たちに微笑みかけると、


「えっと、じゃあ注文は……」


と言って二人はメニューとにらめっこを始めるが、


「そういえばお姉さん。

 以前来た時は小さいお嬢さんが接客していたと思うんだけど」


「もしかして来る曜日とか決まっている?」


そう詩音に質問をしてみたところ、


「あ、ミツヤの事ですか?

 『弟』を覚えていてくれたんですねー」


「そうそう、あの『弟』さん―――オトウト?」


眼鏡をかけた長髪の女性がセリフの途中で疑問形で止まり、


「ン? あれ? でもミツヤって言ってたんだけど?」


ショートカットの女性も頭にハテナマークを飛ばす。


「ええ、ですから弟の事ですよね?」


詩音の答えに飛縁魔と雪女は顔を見合わせると、周囲がざわつき、


「おやおや……どうやらここがどういう店かわかっていない

 お客さんが来たようですね」


「ええまったく困ったものです」


「あんなに可愛い子が女の子のはずがないというのに……」


異様な雰囲気を感じ取った2人は困惑するも、


「えーと、ちょっと待って?」


「この前このお店で働いていたのは、あなたの『弟』さん、なのね?」


詩音はニッコリと笑って、


「はい、そうですわ」


それまでずっと少女だと思っていた存在が少年だったと聞かされ、

彼女たちは情報処理に追われる。


「(そういえばここ、やけに女性客が多いと思ったけど)」


「(あんな美少年がいるんじゃ、そりゃ来るわけよね)」


ボソボソと飛縁魔と雪女は言葉を交わし、


「あー……じゃあ貴女はお姉さん、という事で」


「き、綺麗な『弟』さんがいてうらやましいわ」


2人が語るとまた周囲がざわつき始め、


「わかってない……わかっていないですよこの人たち……!」


「困ったものですわね。

 ここは『初心者』が来るようなお店ではないというのに」


「上級者には上級者の振る舞いが求められる―――」


その反応に、座っている2人は恐る恐る詩音を見上げて、


「ま、まさか……」


「姉と弟、じゃなくて……!?」


すると野狐やこである彼女は周囲を見渡した後、コホンと咳払せきばらいして、


「ええまあ、こういう事、です」


低い地声で話すと、店内が一斉に盛り上がった―――


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