第295話・十六夜一族01


「我らだけで、弥月家やその協力者たる鬼どもと戦うですと!?」


「正気ですか!?」


数日後、様子見という結論を良しとしなかった十六夜いざよいの長老は、

一族の本拠地に主だったメンバーを集結させていた。


「出来ぬか?」


弥月みつきや河童とかだけならともかく―――

 鬼、となると……困難です……!」


寂れた平野の中、場違いに豪華な日本家屋の一室で―――

長老の言葉を、1人が恐る恐る否定する。


「まあ確かに、鬼はどうしようもあるまいの。

 だがこちらには『切り札』がある」


「と言われますと?」


聞き返す者に対し、その老人は水晶玉のような物を取り出す。


「それは?」


「反転の冥石めいせきよ。


 どのような妖怪であれ、妖力ようりょくを反転させる事の出来る石だ」


「封じる……ではないのですか?」


その疑問を呈する言葉に老人は続けて、


「妖力封じの腕輪はあるがな、弥月家が数個所持しているだけだ。

 あいにく我ら十六夜一族にはこれしか無い」


「反転、と申されましたが―――効果のほどは」


次の問いに老人は口元をゆがめて笑い、


「これはの。妖力が強ければ強いほど威力を発揮するのよ。


 全盛期の力を、最も弱まっている時に……逆もまた然り。

 強ければ弱くなり、弱ければ強い時に戻る。


 だから鬼くらい強力な妖怪ほど、これは効果的だ」


それを聞いた一族の面々は顔を見合わせ、


「それならば勝機はある―――か?」


「鬼さえ何とか出来るだけでもだいぶ違うぞ」


「では、河童や野狐やこなどは別働隊が足止めし、本命の鬼は

 主力をぶつけて……!」


そうして彼らは反転の冥石を元に戦略を立て始めるが―――

あの偵察に参加した若者だけは、黙って話を聞いていた。


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