第206話・情報共有01


都内の寂れた場所にある、五階建ての古びたビル。

そこでアラフィフの眼鏡をかけた会社員らしき男が手持ちの媒体に向かって

対応していた。


「む? 琉絆空るきあか。どうした?」


彼は手慣れた感じでまず相手から話を聞き、


「―――そうだなあ。あやかしでなけりゃそれは、

 焼身自殺でもしようと思ったヤツが、燃えながらあちこち歩いたとしか

 思えんわな。


 だが死体は無かったんだろう?」


『ああ。足跡らしきものもな。

 だから妖である事は確定なんだけど』


通話先から琉絆空の声が聞こえ、そして答えを待つ職員たちの

さわめきも入って来る。


「結論を急ぐな。炎を操る、もしくは本体がそれの妖もたくさんおる。


 こういう場合は似たようなケースを探す事だ。

 火事や火に関するものをな」


『すまない。どうも特別第六課こっち後手後手ごてごてに回ってな』


その言葉に初老の彼はふぅ、と一息ついて、


「仕方あるまい。新設されたばかりの組織などそんなものだよ。

 あまり意地悪するな。


 しかし証拠隠滅のため建物ごと燃やすとはな。

 発想が人間のそれだ。


 だが人間だからこそ、つけ入るスキもある」


『と言うと?』


琉絆空が聞き返し、職員たちが聞き耳を立てる。


「せっかく警察という国家権力があるんだ。

 その捜査能力は日本一だろう?


 火に関わる不審な事件、その現場や監視カメラ映像などを洗え。

 面白いものが見つかるかも知れんぞ?」


『……わかった! おっさん、ありがとうな!』


そこで通話は切れ、おっさんと呼ばれた男性はイスに座り直すと、


「まあ、十中八九『飛縁魔ひのえんま』だろうが」


つぶやくように1人の妖の正体を言い当てて見せた。


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