第75話・アナザーアクション・01


「じゃあ行ってくる。火曜日の昼には戻って来るから」


「では行きましょう、満浩みつひろさん」


玄関を出ると、すでにスタンバイしていた裕子さんが俺を呼ぶ。


「行ってらっしゃーい」


「お気をつけて」


「お土産、待っているべよ」


理奈りな詩音しおんぎん―――

倉ぼっこ、野狐やこ川童かわこの人外3人組が手を振ってこちらを見送る。


彼女が週末にこちらに来た日は、一緒に東京へ向かう。

当初は飛行機で月曜日の早朝便に……と裕子さんは言っていたが、

さすがに公私混同が過ぎるという事で俺が止めた。


今は日曜日の夕方。このまま新幹線で東京に向かい、そして彼女の家に泊まって

翌日の月曜日に出勤、という形を取っている。


「じゃあ行こうか。忘れ物は無いね?」


車に乗り込むと、彼女が助手席でシートベルトを締めながら、


「あー……妖怪さんの中に空を飛べるコっていないのかしら。

 人を運んでくれるような」


「飛行機には勝てないと思うけど」


「だからせめて、駅前まで送ってくれるような?」


「いやー、どちらにしろ絶対人の目につくだろうし」


「姿を見えなくしてくれるコとか―――」


「妖怪というより、便利な能力選びになってる?」


そんな会話を彼女としながら、俺は駅へと車を走らせた。




「おはようございます」


翌朝、俺は出社すると職場のみんなにあいさつする。


初めて出勤して顔を合わせてから、すでに一ヶ月弱。

だいたいのポジションや顔も覚えて来た。


プロジェクトリーダーを裕子さんがやっているだけあり、スケジュールもかなり

余裕を持って見積もられている。

担当者も的確に振り分けられ……日本企業にありがちな、

『今、手が空いているヤツがやればいい』的な仕事が無い。


「あれ?」


サブリーダーとして、俺は一応全員の出席に目を通すが、


「グラフィッカーの人、1人お休み?」


「あー、はい。今朝がた連絡がありまして―――

 弥月みつきさんが風邪を引いて休んでいます」


社員の一人が返事と共に状況を返してくれ、


「そうか、最近寒くなってきたしね。

 みなさんも気をつけて。

 無理しないで、体調がおかしい時は休んでください」


あちこちから「はーい」「はいっ」と声が聞こえ……

俺は自分の机のPCで作業に入った。


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