第74話・授業風景


「それでは―――新発売の化粧品について説明していきますね」


一階の大広間を使って、裕子さんが何やら話している。

彼女の前には野狐やこ詩音しおんや倉ぼっこの理奈りなを始め、

15~30くらいの女性陣が10人ほど並んで座り……

授業を受けるかのように座っていた。


そもそも裕子さん、眼鏡をかけた秘書風な感じの人だし―――

状況から女性教師と見違えるようなシチュエーションになっている。


それを別の部屋から俺と川童かわこの銀がのぞき、


「う~ん……化粧の手ほどきをしているのはわかるんだけど。

 あれ全員女性かな?」


「詩音がどこからどう見ても女だしなあ。

 正直、あのレベルの男が混ざったらわからないっぺよ」


そう、座っているのは野狐の面々で―――

人間である裕子さんから、新製品である化粧品の仕方を学んでいるのだ。


若くして部長にまでなった人だし、人に教える事も向いているのだろう。

熱心に彼女(?)たちは集中して聞いている。


「しかし、何でよりによって昼間なんだろうな?」


いくら老舗旅館『源一げんいち』の人がノーアポで来る事は無いといえ、

これまでに予期せぬ訪問は何度かあった。

それだけに、彼らが人の目に触れる可能性を考えてしまう。


「だって夜はミツと裕子さんだけの時間だべ?」


「まあ気遣ってくれるのはありがたいけど、俺が言っているのはそういう

 事じゃなくて」


俺は頭をかきながら答えると、銀は言いたい事を察していたのか続ける。


「大丈夫だっぺよ。

 あそこにいるのは、山のぬし様から『人には見えない』と保障された者

 ばかりだべ」


「あ、他の野狐たちの修行も引き受けてくれているのか」


「まあ主様としても、オラたちのような生活を手に入れた今……

 外の技術や方法を取り込めるルートは、いくらあってもいいと

 考えているだろうっぺよ」


なるほど。フィードバックも期待して―――という事か。

……あれ?


「でもそうなると、知らない人から見れば裕子さんがただ1人で

 何かしゃべっているように見えないか?」


「それは気付かなかったべ。

 ちょっとマズイべか?」


「まあその時は外から見えないようにすればいいだけだし。

 一応、後で指摘しておこうか」


そんな事を話しながら、俺と銀はその場から離れ、


「……どうしようかな。

 そろそろ昼食だけど、野狐たちも食べるかな?」


「あー、そういえば裕子さんが何か台所で用意していたみたいだべ」


「準備万端ってわけか。

 じゃあちょっと見てみよう。手間がかかるようだったら手伝ってくれ」


「任せるっぺよ」


そして俺と銀は、ひとまず台所へと向かった。


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