第285話・調査01


「あ~……くそっ、どうして俺たちがこんな田舎に」


東北地方のある田舎道を歩くのは―――

10代後半から20代前半と思われる青年たち。


そんな彼らは、グチにも似た言葉で互いに会話を交わしていた。


「さーて、鬼が出るか蛇が出るか……」


「蛇はともかく、鬼が出るのは確実だからなあ」


この若者たちは、長老会議の結果―――

弥月みつき一族の様子・過程を調査するために派遣された者であり、


風道ふうどうおぼろ十六夜いざよいといった古めかしい名前を持つ

あやかしを狩るそれぞれの一族の中から選抜された青年であった。


「どこだっけか……

 鬼は山の中、まあこれは妥当だけど」


「倉ぼっこと川童かわこは、目白めじろ家で暮らしているって話だ」


「?? 同居か?」


それを問われた男は首を横に振って、


「いや、川童は離れの倉で暮らしているらしい。

 同じ敷地内にあるようだ」


「まあ恋人同士で同棲しているもんな。

 さすがに別居になるだろう」


「しっかしまあ、人間だってLGBTだの何だの騒がれている

 このご時世に―――

 好き同士でくっついたのなら、放っておけばいいじゃねーか」


恨みのこもった声は、どちらかというと調査を命じた自分たちの長老へ

向けられていて、


「仕方ねーよ。老人は新しい物が苦手なんだから」


「それと後は……

 鬼は山の中のトレーラーハウスに、彼氏と一緒にいるってよ」


「人間と一緒ならまあ野宿ではないか。

 つか、こっちの方がよほど文明的な生活を送っているって

 どういう事だよ」


「新顔とやらも、ちゃんとした家屋敷を購入して住んでいるみたいだしな。

 老舗旅館に勤めているって話だし―――」


彼は歩みながらやり取りしていたが、やがて1人が足を止めると残りの2人も

同時に立ち止まり、


「……で、だ。


 鬼が出て来たら、正直、俺たちだけで勝てるか?」


「ぜってー無☆理♪」


「ちくしょう、老人どもが納得いかないからって―――

 何で若い者が命がけの任務に駆り出されなきゃならないんだよ」


もはや上層部への不満を隠す事なく、彼らは再び歩き始める。


「何で俺たちがこんな目にあわなきゃならねぇんだ……」


「なまじ有能だったのが仇になるっつーパターンだな」


「グチはよせ、とにかく行くしかない。


 ―――ていうか、本当にこの道で合っているのか?

 もうずいぶんと歩いているような気がするけど」


その問いに、先頭の1人がスマホを開いて、


「いやこの道で合っているはず。

 そもそも一本道で……


 ってえぇっ!? 電波届いてねーぞ、おい」


「いやいや待ってくれよ。今日の最高気温、田舎でもやべーのに」


「な、なるべく木陰を歩こう……

 このままじゃ俺たち、先に日射病にやられるかも」


他の2人も不安になり、スマホを開くが、


「マジか。本当に電波が通ってねえ。

 駅周辺はまだマシだったんだな」


「つかどうするんだよ、引き返すか?

 てかお前がこっちだって言うから、俺たちついて来たのに」


「仲間割れはよそうぜ。

 遭難した時一番怖いのは、人間関係の崩壊だ」


そこで先頭以外の2人はピタリと足を止め、


「「遭難ってやっぱりか!!」」


「いや怒鳴るな、体力を消耗するぞ。

 ―――ってアレ? 何か、フラフラしてき……た……」


そして一人が膝をついたのを皮切りに、残りの2人もまた意識を手放した。


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