第310話・決着03


「お待たせいたしました、長老。

 『影』部隊、ただ今帰還しました」


人通りどころか外灯すら全くない山中で―――

特殊部隊のような装備をした男2人が、和風な装束に身を包んだ老人に

頭を下げる。


「遅いわまったく!!

 あやかしどもに返り討ちにされたのではないかと思ったぞ!


 それに、何でお主らだけなのじゃ?

 連絡では妖どもへの襲撃は成功し、山に追い込んだと聞いたが」


「我々以外は一応備えとして置いてきました。

 これといった反撃が無いのを確認次第、戻って来る予定です」


それを聞いた長老は満足そうにうなずき、


「そうかそうか、まずまずじゃな。『月』部隊も間もなく来よう。

 鬼を捕獲したとの報告があったのだ。


 反転の冥石めいせき……役に立ってくれたようじゃのう」


「我々もそれは聞きました」


「鬼をこの目で見るのは初めてですが―――『楽しみ』です」


すでに『月』部隊も鬼を始めとする人妖混合チームに降伏、

そして協力している事を知っている彼らの表情に笑みが浮かぶ。


「そうじゃろうそうじゃろう。


 これで弥月みつき一族は元より、風道ふうどうおぼろの連中の

 鼻を明かしてやれるわ!」


老人の言葉に、後方に護衛兼身の回りの世話で立っている青年2人は、

疲れたような表情になるが、


『影』部隊の人間がニヤッ、と笑いながらアイコンタクトを取ると、

何かあるのを察したのか、表情を戻す。


するとそこへ、『月』部隊が鬼を連れて到着した。




「なんじゃ、お主たちもそれだけの人数で―――」


少人数で戻って来た彼らを長老は不審そうな目で見るが、


「そうは言ってもあちらには、弥月一族の者がおりました」


「協力体制にある彼女を奪い返しに来ないとは言い切れませんので、

 他の者は警戒にあたりながら下がるよう命じてあります」


『影』部隊と似たような理由に老人はそれ以上疑う事もせず、


「まあ良い。鬼を捕らえただけでもこの上ない成果じゃ」


そして腰のあたりをロープで巻かれた鬼の舞桜まお……

角や肌の色を抜かせば10才くらいにしか見えない少女が、

両手こそ拘束されていないものの、ロープの先は『月』部隊の

人間が握っており、否応なく捕縛ほばくされているという事がわかる。


その彼女が『月』部隊隊長の手によって長老の前に出され、


「ふん、こうして見るとただの童女どうじょよの。

 じゃが十六夜一族の手にかかってはこんなものだ。


 何か言う事はあるか、人を害する妖よ」


老人は腰を曲げて舞桜と視線を合わせるが―――


「……!?」


妖と呼ばれた少女はぽろぽろと泣き出して、


「何で、こんな事をするのじゃ。

 アタイはただ、山の中で静かに暮らしておっただけなのに」


さすがに孫くらいの外見の女の子の涙に長老はうろたえるも、


「なな、何を抜かすか!

 そもそも人と妖は相容あいいれぬ存在!

 これまで人に害をなした事が無かったとは言わさんぞ!!」


それでも妖怪=悪という前提で彼は彼女を糾弾きゅうだんする。


「少なくともアタイの方から人に手を出した事は無いわ!

 無頼ぶらいの者がやって来て山に手を出したり、他の人間にも迷惑を

 かけおったのを、追い払っただけじゃ!!


 それ以外ではずっと山の中で大人しく暮らしておった!

 それすら……それすらアタイには許されんと言うのか!?」


長老の護衛をしていた青年2人も、『まあ、そりゃあ……』

『だよなあ……』と同調するも、


「そ、そもそも妖が人と接する事自体が問題であって」


なおも長老は反論をこころみるが、


「最近ではけものにすら、その住処すみかを荒らすのは良くないとして

 人間たちは配慮しているというではないか!


 アタイたちは動物以下か!?

 乱暴者がやって来ても、無抵抗で身を隠すだけでいろと言うのか!!」


舞桜はそう言いながら長老に近付くと、両手でポカポカと老人の胸を叩く。

ただその攻撃は年相応の少女のそれでしかなく、


「うわーん!! 嫌いじゃ、人間なんか大嫌いじゃあ~!!」


そう言って泣きながら―――

彼女……鬼は暗闇の中へ走り去ってしまった。


そしてその場にいた部隊の連中はただそれを見送り、


「あっ、おい!! に、逃げられたぞ!!

 何をしているか!?」


そう長老が抗議するも、


「いやあ、だってねぇ……」


「今の俺たち、単に大人しく暮らしていた人外を襲撃に来ただけですぜ?」


「どう考えても彼女の言い分の方が正しいでしょ」


彼らの言葉に老人は怒りをあらわにしながら、


「ええい、もういい!

 他の部隊の残りが帰って来たら撤退するぞ!


 お前たちの処分は帰ってからじゃ!!」


そう言って地面に座り込んだ。


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