9章 移住者

第241話・依頼02


「とゆーわけで会議を始めます」


雲外鏡うんがいきょう』さんからあやかしの移住要請を打診されたその日の夜―――

俺はちゃぶ台を挟んで川童かわこの銀と向かい合い、


そしてスマホで理奈と裕子、弥月みつき兄・琉絆空るきあさんと鬼の舞桜まおさん、

銀は恋人である弥月妹・加奈さんと連絡を取り合い……

野狐やこの詩音もリモート参加させて会議がスタートした。


「というか、まず聞くべきは舞桜さんですね。

 もともとこの一帯のぬしという事ですが、妖の新規受け入れについて

 何か問題はありますか?」


彼女は通話先で、琉絆空さんと何やら話し合っていたが、


『特に問題は無いぞ?

 ただ、衣食住は大丈夫なのか?


 聞けば江戸……東京から移住するのであろう?

 地元の妖として言わせてもらえば、不便きわまりない土地じゃぞ』


さすがにここに数百年住み続けたジモティー。

言葉の重みが違う。


『まあ、都会の水が合わない人もいますから……』


『そうかなー、出来れば僕もう帰りたくないけど』


裕子と理奈が対照的な意見を述べ、


「確かにオラも一度上京した時は驚いたべ。

 1日中どこもかしこも明かりが点いていて、不夜城ふやじょうかと思ったべよ」


褐色肌のジャニーズ系青年も感想を語る。


『問題は住めるかどうか、ですよね』


『舞桜さんみたいにトレーラーハウスとかあればいいんだろうけど、

 あれ一千万円以上するんだっけ』


弥月兄妹も、現実的に直面する問題から話す。


「しばらくなら、俺の家に入れてやってもいいんだけど」


『でもいつまでもミツ様の家に置いておくわけにも……』


詩音が心配そうに話に入って来る。


満浩みつひろさん、『雲外鏡』さんはそれについて可能な限り

 協力するって言っていたんですよね?


 具体的にどうするかは示されていないんですか?』


「いや、金銭的にもバックアップするとの言質げんちは取っている。

 ただ具体的な金額は聞いていないからな……


 何にせよ、移住するのであればまず家だよなあ。

 土地は余りまくっているってイメージなんだが」


そこで銀が『あ』と何かに気付いたような声を上げ、


「オラ、今は老舗旅館『源一げんいち』で働かせてもらっているべが、

 旅館の人とそこそこ親しくなっているっぺよ。


 そこで余った家や住めるところが無いか、聞いてみるだべ」


そうか、銀はもう『源一』で働いて長いし―――

相談に乗ってもらえるかも知れない。


「銀はもうあそこが職場だもんな。俺が聞くよりいいかも。


 じゃあ俺は改めて、『雲外鏡』にいくらくらい出せるのか聞いてみるよ」


そこでひとまず方針は固まり、会議はいったん終了した。


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