第3話・存在意義


「んーオイシー♪ やっぱり人間の食事はいいなー♪」


「だべなぁ。きちんと料理してあるものは味が違うっぺよぉ」


俺の料理……と言ってもインスタントラーメンに肉野菜をただぶち込んで

煮たものを、彼らは嬉しそうに頬張る。


「何で普通に家でメシ食っているんだよ」


俺はそう言いつつも、死ぬ間際まで爺さんの側にいてくれたこの

妖怪たちの事を思うと、無下には出来ずにいて―――


「でも満浩みつひろが来てくれて良かったよぉ。

 このままじゃ僕たち危なかったかも」


「だべなぁ。隣村なんてもうみんないなくなっちまったらしいべ」


ふと不穏な発言が彼らから発され、俺は聞き返す。


「何だ? 隣村がどうしたんだ?」


すると2人は食べている箸を止めて、


「もう仲間がいないんだよ。このあたりもすっかり減っちゃってさあ」


「んだ。だからこのままじゃここを捨ててどこかに行くか、それとも

 妖怪でなくなるか選ばなきゃならなかったべ」


死ぬ、とかいう話ではないようだが……

そもそも妖怪に死ぬという概念はあるのだろうか?

それに気になる川童かわこの言葉―――


「妖怪でなくなると、どうなるんだ?」


俺の問いに、2人は一瞬視線を下げて、


「僕たちみたいな妖怪っていうのは、人が見たり聞いたりして、

 怪異と認められて初めて存在出来るんだ」


「逆にそう認識されなければ、ただの石や木、風が吹いているのと

 大して変わり無いんだべよ」


彼らの言っている事はわからなくもない。不気味な気配とか、

音とか姿とか……

それらも誰かに見られず聞かれもせず、感じられもしなければ

無かった事と同じだ。


つまりそこらの木や石、風と何ら変わらない存在になっちまう―――

ただの自然現象と同化するって事か。


そこまで考えたところで俺はふと彼らの話を思い出し、


「待て。確か爺さんはお前たちに気付いてはいたみたいだけど、

 見えなかったと言っていたな? じゃあ何で俺は見えるんだ?」


別段、俺は霊感体質というわけじゃないし―――

神様だって信じていないタイプだ。


「まあそこまではよくわからないよ。

 『見えるから見える』としか言いようがないねー」


昌兵衛まさべえも子供の頃はオラたちが見えていたはずだべが。

 むしろ大人になっても見える方が珍しいんじゃないべか?」


倉ぼっこ、川童の説明からすると俺はどうやらレアケースらしい。

だからと言って有難くもなんともないんだけど。


「でも俺、高校卒業後も何年かここに来てたぞ?

 その時にお前らの姿はもう見えていなかったけど」


「それは僕たちの方から会わないようにしていたんだよ。

 だって、いつまでも年を取らない子供がいたら変でしょ?」


「無難な答えで悪いが、まあそういう事だべ」


確かにそれもそうか。それに『見える』事も良い事ばかりじゃない。

下手をすれば頭がおかしいと思われてしまう場合もある。


特にあのババアとクソ兄貴に知られたら、何をされたか

わかったもんじゃ……


「どうしたの、満浩?」


「何か問題でもあるっぺか?」


彼らの声で意識がハッと戻り、


「いや、別に問題は―――


 あ、あるわ」


俺の答えに『えっ?』『何があるだか!?』と2人は驚くが、


「だってそうだろ。

 いきなり扶養家族が2人増えるんだから」


その言葉に、理解出来ないというように倉ぼっこと川童は首を傾げた。


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