第95話・兄妹喧嘩・05


「はあっ、はあ……っ」


「いい加減ギブアップしたらどうだ、加奈かな


兄妹の戦闘が始まってから小一時間ほど……

弥月さんは肩で息をしているが、兄の琉絆空るきあさんは汗一つかいていない。


それだけ戦えるだけでもすごい体力なのだが、攻撃一辺倒の妹とは異なり、

兄の方はただ受け、交わし、さばくのみ。

そして遠距離攻撃で術らしきものを飛ばしても、それを軽くはじく。

実力差は明確と言ってよかった。


「どっ、どうしても銀様との仲を認めないつもりですか……!」


「当たり前だ。弥月一族があやかしなどと……

 例え自分が同意しても、両親が認めやしまい。


 それに同族に与える影響が大き過ぎる。

 下手をすれば、他の妖を狩る者たちが弥月一族の敵に回るぞ」


客観的な意見を述べる彼に、反論は無い。

彼女だけでなく、俺や裕子さん、それに人外3人組も―――


と思っていると、川童かわこである銀が兄妹の間に割って入り、


「銀ちゃん!?」


「あ、危ないですわ!」


そこで彼は人間の男性と対峙すると、


「もうそういう時代じゃないと思うべよ。

 オラたちも、今やミツの家で文明的な生活をしているし。


 ここで実害があったといえば、むしろ人間の方だけだったべ」


「ぎ、銀様……!」


彼の後ろで、ウルウルと涙目で加奈さんが見つめる。


「ふん―――

 ならば自分を止めてみるか?

 それだけの力がお前にあるとでも?


 もし手向かうなら……

 妖として、そして加奈の兄としてお兄ちゃん全力でいくからな!!」


そう言って彼は初めて戦闘態勢を構える。

最後の言葉さえなければカッコイイと思えるのだが―――


「じゃあオラも、最終手段を使わせてもらうべ……!」


「いいだろう。しかしそれが通じなければ妹は諦めるのだな」


そう琉絆空さんが言い終わると銀は動き出す。


ぬし様である鬼っ子の元で修行してパワーアップしたという話だが、

それがどれだけ彼に通じるか―――


と思っていると銀はスマホを取り出し、


「あ、もしもし警察だべか?

 いや通りすがりの者なんだべが何かアヤカシだの狩るだの言って

 暴れている男性がいるっぺ。

 すぐ来て欲しいんだべが、場所は―――」


「最終手段って国家権力ー!?

 おま、妖が使っていい手段じゃねーだろ!!」


「ファイナルアンサーだべ。

 本当に通報はしてないっぺが、お兄さん次第だべよ」


すると加奈さんも銀のスマホに顔を近付けて、


「どーする兄貴? さらに私が叫んでもいいけど。

 でも身内から警察のご厄介になる人を出すのはちょっと私もねー」


「えぐいでしょ!? えぐ過ぎるでしょ!!

 わかったよ、通報だけは止めてくださいお願いします!!」


そう言い捨てると彼は土下座し……

そしてそれは、勝負が決まった瞬間でもあった。


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