第136話・お仕事・詩音視点04


詩音しおんちゃん、お疲れ様ー」


「詩音ちゃん、またねー」


「はい、お疲れ様でした。お先失礼します」


ここは秋葉原のとあるメイド喫茶。


時間はすでに22時を回り、同僚たちにあいさつして外に出ると、

まだまだ厳しい寒風が吹いていた。


「う~……寒いですね。

 昼間はまだマシなんですけど、温度差が激しいっていいますか」


独り言のようにつぶやきながら、最寄り駅まで先を急ぎます。


アタシの勤めるメイド喫茶は駅からちょっと奥の方にあるので―――

少し歩かなければなりません。


さすがに人通りも寂しくなり、まったくいないわけでも無いけど、

昼間とは比べ物にならないくらい少なくなっています。


「……んっ?」


声が聞こえました。それも女性の声。

しかも悲鳴に近いような―――


「こっち、ですね」


アタシはその声の元へ急ぐ事にしました。




「何だよ、そういう商売じゃねぇのかよ、あぁん?」


「だから、私は違います!

 放してください……!」


その声の発信先である路地裏に到着すると、ガラの悪い男が3人ほど、

1人の女性に絡んでいました。


アタシに気付いたのか1人がこちらを向き、


「おっ、何だぁ?」


「こっちよりいい女じゃねーか」


「オイ、お前もこっちに来いよ。

 もし逃げたらこの姉ちゃんがどうなるか―――え?」


その声が終わるか終わらないかのうちに、アタシは3人に接近し、


「あがっ!?」

「ぐっ!?」

「うげぇっ!!」


1人のアゴにパンチを、1人のみぞおちに膝を、そして最後は腕をつかんで

内側にひねって回転させ、投げました。


「大丈夫ですか?」


「はっはい! ありがとうございます!」


彼女を介抱すると先に逃がし……

男たちが動けなくなった事を確認すると、アタシも路地裏を去ろうと

しましたが、


「クソがぁああっ!!」


「!」


アタシの背後から、ナイフを持った男が突撃してきました。

その事自体は別に驚く事でもありませんでしたが、


あやかし!?」


その男には獣のような耳があり、口の中には牙も見え―――

対応が遅れ、まずいと思った瞬間、


「んが……っ!?」


その男はアタシの直前で動きを止め、そのまま崩れ落ち、


「油断大敵よ、詩音さん」


「まあコイツもかなり弱い部類だから、ほとんど妖力を感じられ

 なかったんでしょうけど」


その背後から、特殊部隊のような格好の2人―――

武田様と加奈さんが現れました。


そして倒れた男はというと、


「チッ、チチッ」


どうやらドブネズミの妖だったようです。

逃げようと向きを変えましたが、すぐにアタシの爪がそれを捕らえ、


「ヂーッ!? ヂヂヂーッ!!」


子猫くらいのそれをシッポから吊り下げると、そのままアタシの

口の中に入れ、


「……ヂッ!?」


一口、甘噛みした後手放すと、そのまま地面に落ちる。

アタシはしゃがんでそれと向き合い、


「……今回だけは見逃してあげます。


 もしまたやったら頭から噛み砕いてあげるわ。

 アタシ、ネズミ大好きだから♪」


それを聞いた彼は、一目散に路地裏の奥へと走り去りました。


「詩音ちゃん、ヘンなもの拾い食いしちゃダメよ」


「まああれだけ脅かせば、二度と悪さしないと思うけど」


立ち上がったアタシは武田様と加奈さんに改めて振り向き、


「すいません、お手数をおかけして。

 じゃあ、アタシはこれから帰りますけど」


「ええ、気をつけてね。

 私たちはこれから少しパトロールに回るから」


「あ、じゃあこの2人は一応通報しておくかー」


後の処理をお2人に任せ―――

アタシは武田様のマンションへと帰る事にしました。


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