第202話・あやかし(人間ベース)の活動03


「う~ん。出来るかしら、これ?」


セミロングの眼鏡をかけた女性―――

飛縁魔ひのえんま』は郊外の廃ビルを前につぶやく。


時刻はすでに深夜0時を回っており、外灯の明かりははるか遠く……

暗闇が周囲を支配する。


「木造建築ならよく燃えるんだけどさぁ―――」


確かにビル火災というのはあるが、あれは壁紙や床材、生活用品などの

可燃物があるからで、


目の前の廃ビルにそれを期待するのは無理に思えた。


「警察の捜査は終わったみたいだけど、念のため焼いておいて欲しい、か。


 『雲外鏡うんがいきょう』様の命令ではあるけれど……

 結構無茶ブリ過ぎない?」


ぶつぶつ言いながら彼女が考えを巡らせていると、そこに突風が吹き、


「あら、『烏天狗からすてんぐ』」


背中にカラスのような漆黒しっこくの翼を背負った青年の登場に、驚く事もなく

あいさつする。


「『雲外鏡』様に手伝えと言われて来た。

 どうだ、出来そうか?」


同じあやかし仲間の言葉に彼女はガッツポーズのような姿勢を取り、


「そりゃーありがたいわ。


 じゃ、私中入って燃えてくっから、外側から大風起こしてくれる?」


「わかった」


青年はうなずき、眼鏡の女性はそれを確認すると、


「燃~えろよ燃えろ~よ~♪」


「……どうなんだその言い方」


軽やかな足取りで彼女は廃ビルの中へ入って行き、それを呆れながら

青年が見送る。


そして数分後、1階の中から火の明かりが見え、


「……やるか」


『烏天狗』は羽団扇はうちわを構えると、廃ビルに向かって勢いよくあおぎ―――

そして火は全体に燃え広がり始めた。


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