第86話・武田視点07


深夜、2つの影が都会の路地裏を走る。


その影の1つは弥月みつき加奈かな

あやかしを狩る一族の末裔。


そして同時に走る影は―――


「弥月さん、この先にいるわ」


「了解です、部長!」


私、武田裕子たけだゆうこは彼女と共に、1匹の妖を追っていた。


『部長、こちらの世界に来て私と一緒に戦いませんか?

 素質あると思うんです!』


そう弥月さんに誘われたのがきっかけで、この世界に足を踏み入れた。


事情を知っている人なら、私がどうして、と思うかも知れないが……

これには理由がある。


そもそも弥月さんは、確かに妖を狩る使命を引き継いできたが―――

自分たちに関わった件でもわかるように、問答無用ではない。


無害だとわかれば逃がす事もあるし、気に入らなければ同じ妖を狩る

同業者でもぶっ飛ばす。


つまり事情によっては、妖側の立場に立つ事もあるという事だ。

そして私もそれなりの戦力になれば、理奈さんたちをいざという時

助ける事が出来る……という考えに至った。


幸い彼女もその考えに同意してくれている。

今では弥月さんとパートナーを組み、こうして目につく妖どもに

対応するようになっていた。


「今回はどうするの? 弥月さん」


「理由次第ですねえ。話が通じる相手であれば、ですけど」


2人で走り続けると、やがて路地裏の奥、行き止まりに差し掛かり―――




「ク……ッ、この赤マント様がこんなところで……!」


そこには、派手な赤いマントを身にまとった男がいて―――


「赤マント? 知ってる、弥月さん?」


「武田部長が知らないのも無理はありません。

 この怪人は昭和世代の化け物で……」


弥月さんが端末を操作してデータを教えてくれる。


「ジェネレーションギャップでダメージ与えるの止めてくれません!?

 せめて霊能力でお願いします!!」


怪人の抗議に構わず私と彼女は続けて、


「少女を狙って誘拐し、乱暴して殺すという怪人です。

 どちらにしろ人間の敵以前に女の敵なので」


「ああ、それじゃ見逃せないわね」


私と弥月さんが身構えると、


「誤解だ! 俺様にそんな能力は無い!

 そもそも実体が無い存在なのだ、物理的に傷つける事は出来ん!」


そこで私たちは顔を見合わせ、


「アレ? そうなんですか?」


「だとすると話が違ってくるわね……

 でもどうしてそんな物騒ぶっそうな噂になったのかしら」


私と弥月さんの視線が怪人に向かうと、


「いや少女好きなのは本当なので。

 実体が無いぶん思う存分まとわりつけるし、多分それでそんな噂が」


「「死ね」」


こうしてまた1つの怪異が、私たちの手で断たれたのだった。


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