第22話・獲物のシメ方
「うーむ……」
「どうしました?」
老舗旅館『源一』の厨房で―――
料理長らしき男が、野鳥であろう素材を前にうなっていた。
「あー、
「何か問題でも?」
倉ぼっこや
それらも『敷地内で死んでいた野生動物』として『源一』が引き取って
いたのだが、
使えそうな獲物はまかないとして、また一部の常連だけに振る舞う
『秘密のメニュー』となっていた。
「毎度ながら、鮮度が妙にいいのが気になってな。
それに外傷がほとんど見当たらない」
さすがに野生動物の死体を家の冷蔵庫には入れたくないと
業務用の冷蔵庫を提供。
おかげで引き取りに行くまでそれで保管出来るようになり、
そこで血抜き・運搬・調理の流れがスムーズに出来ていた。
「腐っていたり、傷んでいるものは放置しているんじゃないですか?」
「それも考えられるんだが……」
そこで料理長はすでに毛がむしられた野鳥の首を持ってプラ下げる。
「これなんか首の骨が折れてんだ。何ていうか―――」
まるで幼い子供の手で絞め殺したみたいだ……
とは言えずに彼は黙り込む。
「安武さんが獲っていたりとか?」
「いや、そりゃねぇな。素人がこんなにキレイに殺せるもんじゃねぇ。
まあ木にぶつかったり、ツルか何かが首に絡まって暴れたとかじゃ
ねぇかなあ」
「へえ、そんな死に方もあるんですかい」
彼は野鳥を下におろすと、
「ま、死因が病気でなけりゃいいさ。
そればかりはさすがに食えねぇからなあ。
じゃあ
その声で厨房内が活気付き―――
忙しく料理人たちが立ち回り始めた。
「ミツー、もうやっちゃう?」
「いや、『源一』が来る日の朝でいいから……」
俺の目の前には、倉ぼっこや
野鳥やウサギを手に持ちこちらを見つめる。
野狐に『獲物はなるべく傷が無い方がいい』と話したら生け捕りにして、
家まで持ってくるようになった。
昔ニワトリを飼っていた小屋があったので、それはそれで問題は
無かったが―――
「そういえばミツは都会っ子だったっぺな。ニワトリをシメるところを
見た事が無いっぺ」
「そうなんですか? ミツ様、意外と繊細な方だったんですね」
川童と野狐の言葉に俺は首を横に振り、
「俺は今年で36才になるけど、ニワトリやウサギを絞め殺した
経験はねーよ。というか今の時代、畜産関係でも無けりゃそっちの方が
珍しいって」
そこで人外三人組(人間Ver)は顔を見合わせ、
「そういえばミツと同年代ってそんな感じだったねー」
「言われてみればそうだったべ」
「たった100年で、人間も変わるものですねえ」
口々に感想を述べる3人に、俺はため息をついた。
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