第149話・瑠奈視点02


「おぉお、これが詩音お姉さまのおにぎり……!!」


「……しかも1人2個ずつとは……


 ワタシたちがお店に入った時点でも、お客さん10人ほどいたし……

 前後を考えても、4,50個ほどは握った事に……!」


メイド喫茶からの帰り道―――

水樹みずきちゃんと一花いちかちゃんが包みの中からお土産を

取り出し、そのサランラップで包まれたおにぎりを恍惚こうこつの表情で見つめる。


かくいう私、卯月うづき瑠奈るなも……

あのお姉さま(男だけど)がその手で握ったと思われるそれを手にして

ドキドキしている。


おにぎりというのがまた男料理っぽく、あの美人な詩音さんの外見との

ギャップを思わせ―――


「(……でも、相変わらず詩音さんにあったあの耳としっぽ……

 2人、いや他の人にも見えていないみたいだったけど……)」


これを水樹ちゃん、一花ちゃんに話すべきかどうか迷っていると、


「よお、お嬢ちゃんたち♪ 今帰りかい?」


ふと、下品そうな男の声が聞こえ3人で振り向くと、180cmはありそうな

長身のおじさんが、気持ち悪い笑顔をこちらに向けていた。


水樹ちゃんはその細目を歪ませ、一花ちゃんも普段ジト目になっている目から

光を失わせている。


その男の年齢に似合わない金髪も、その下品さに拍車をかけていて、


「はい、もう帰るところですが」


「あぁ~ん? 何ぃ~その迷惑そうな目は?

 俺、何か迷惑かけたっけぇ~?」


私たちの通う学校は共学ながらも、みんな男に免疫が無く―――

一番元気いっぱいだった水樹ちゃんはすでに足が震えている。


助けを呼ぼうにもすでに午後10時を回っていて、駅から遠い事もあり

人通りもまばらで……


「なぁにキョロキョロしているんだよ?

 あ、もしかして大声でも出そうとしてる?


 それこそ近所迷惑じゃないのかなぁ~?」


私たちはそのおじさんと一定距離を取っているが、ジリジリと

狭い路地裏に追いやられ―――

いつ迫って来るかわからず、涙目になる。


「あ~あ、そういう目で見られたら傷付いちゃうな、お兄さん。

 お詫びにちょっと付き合ってもらおっかな?」


と、腕を伸ばして来て、もうダメだと思った瞬間、


「あら、3人いっぺんなんて欲張りね♪

 でも相手が違うんじゃないかしら?」


その男の腕を、いつの間にか女性がつかんでいて、


「お姉さま!?」


「詩音お姉さまー!!」


そこに現れたのは、あの詩音お姉さまだった。


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