第256話・移住者2号3号・01


「そのお2人が?」


「ああ。『猫又ねこまた』の『麻夜マヤ』と―――

 『唐傘からかさお化け』の『時雨しぐれ』だ」


そう『雲外鏡うんがいきょう』さんに説明されたが……

女性の方は姫カットの10代後半? くらいに見え、


男性の方は、ボサボサの短髪と作務衣さむいも相まって―――

ひと昔前の『その筋』の人に見えた。


「普通に覚醒出来たんですね」


「ああ。それで……

 この2人の面倒をしばらくここで見てもらいたい。


 当面の生活費も振り込むから」


東北にある俺の実家に、例の妖怪―――

『猫又』と『唐傘お化け』を『雲外鏡』さんが連れて来たのだが、


どこからどう見ても二十代前後の男女にしか見えなかった。


「あっ、『猫又』に『唐傘お化け』……!

 人間の姿になったんですね!」


そこへワンレングスのように、片目を髪で隠した少年―――

『一つ目小僧』の『人見ひとみ』君がやって来て、


「そーだにゃー!

 そっちも可愛くなっちゃってまー♪」


「しかし、のどかなところだねぇここは。

 都会にまみれたあっしの心が洗われるようですぜ」


ようやく移住組が全員そろった、というところか。

しかしはたから見ると、若夫婦にその子供といった感じだ。


そこでふと、『雲外鏡』さんが『人見』君に近付き、


「『麻夜』も『時雨』も……

 覚醒した事で能力が大幅に上がり、新たな力を得たようなのだ。


 例えば『猫又』は各種知覚能力、それに夜目が各段に上がり、

 『唐傘お化け』はごく局地的にだが、雨を降らせる能力を身に付けた。


 『人見』にはどういう変化があった?」


それを聞いた少年は考え込み、


「いや、無ければ無いでいいし、それをとがめたりはしない。


 もし何かあれば把握しておきたかっただけだ。

 言いたくないのであれば、別に隠しても」


『雲外鏡』さんは彼を気遣って話を続けると、


「いえ、名前を付けてくださったのは『雲外鏡』様です。

 隠すような真似はしません。


 ただ僕の能力は何と言いますか」


『人見』君はどこか言い辛そうにしていたが、


「何だにゃ? そんなに微妙な能力?」


「別に、無理に言わなくてもいいんですぜ?

 『雲外鏡』様もそうおっしゃっておりやすし」


『麻夜』さんと『時雨』さんもフォローに回る。

しかし彼は意を決したように、


「ええと、多分これは透視能力です。


 中身が透けて見える……そんな感じの力が僕に」


それを聞いた『猫又』さんが胸を隠して、


「いやぁん、えっちにゃ~♪」


「集中しないと見えないですからねっ!

 うぅ……だから言いたくなかったのに」


視線を落とす『人見』君の頭を、『雲外鏡』さんがポンポン、と軽く叩き、


「いや、十分だ。よく言ってくれた。


 それにその能力の汎用性は高い。

 特に俺たちの仕事ではな―――


 とにかく、今しばらくはその姿の生活に慣れるためにも、

 ここで暮らすといい」


と、人外3人を残すと彼は車に向かい、


「『雲外鏡』さんはどちらへ?」


「例の家と土地、山小屋の購入手続きを済ませてくる。

 それから東京に戻るつもりだ。


 安武やすべさん、コイツらの事はくれぐれもよろしくお願いする」


そう言うと彼は、車に乗り込んで去っていった。


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