第204話・弥月琉絆空視点06


「ふう」


特別第六課があるビル内の自販機前で、自分はため息をついていた。


お役所仕事とは言うが―――せっかくつかんだ手がかりを、

モタモタしている間に燃やされてしまったのだ。


……まあ、自分もまさかあの廃ビルごと燃やされるとは思っても

みなかったが。


「浮かない顔ね、琉絆空るきあ


「母さん!?」


まだ10代前半にしか見えない、和服を着た小柄な少女……

そして実の母親の出現に自分は驚いて立ち上がる。


「どうしたの? 何か行き詰まっているの?」


「そうなんだよ。

 自分が再度調べようと思っていた場所が燃えちゃってさ」


そして自分は母さんに事情を説明した。




「火事に強風、ねぇ。

 わかっているのはこれくらい?」


「は、はい。

 現場検証が終われば、すぐにでも詳細がわかると思いますが」


第六課のフロアに戻ると、すぐに母さんは事情がわかる人から

情報を聞いて分析し始めた。


「幽霊のように実体を持たないあやかしの存在がいると自分はにらんでいる。


 だけど、そんな妖が燃やすだの風を起こすだの、そこまでの能力を

 使えるとなると―――」


すると母さんは自分に近付き、背伸びをするようにして、


「痛っ」


可能な限り足と手を伸ばしてデコピンをしてきた。


「あのねえ琉絆空。

 確かに、姿を消せる上に炎を操り、風まで起こす……

 そんな妖がいないとは限らないけど。


 何も一つの妖だけが、それらの能力を持っているとは限らないわ」


「あっ」


自分が声を上げると、何事かわからない周辺の特別第六課の職員たちは

母とのやり取りを見守り続ける。


「実体を消す事も、火を出す事も、風も―――

 別々の妖が持っている、と考えるのが妥当でしょうね。


 何せ人間ベースの妖を追いかけているんでしょう?

 組んでいたり協力関係にあるのは十分考えられるわ」


「た、確かにそうだ。

 あっちは組織で、かつ元人間なんだから……」


自分はそれを聞いて頭をかくと、


「じゃあ、頑張りなさい琉絆空ちゃん。


 あ、特別第六課のみなさん。

 差し入れのお菓子ですのでどうぞ。


 それじゃ息子をよろしくお願いしますね」


そう言うと母さんは退室するためにドアへと向かって行った。


「……あの方、本当に君のお母さんなんですよね?

 いったいいくつくらいなんです?」


目を白黒させた職員がたずねてきて、


「え? 確か今年でご」


と言った瞬間、自分とその職員の間を何かが通り過ぎ、


振り向くと向こうの壁に―――万年筆のようなペンが突き刺さっていた。

そしてもう一度母さんの方へ振り返ると、


「る~き~あ~ちゃん?

 女性の年齢をバラすのはタブーよ?」


おそらく投擲したであろう片腕をこちらに向けたまま、にこやかな

笑顔で母さんが立っていて、


「わ、わかったよ! でも刃傷沙汰は止めてくれよな!?

 ここ一応警察なんだから!」


「はいは~い♪ それじゃ失礼しますね」


そして母さんは退室し、残された自分と特別第六課の職員たちは

脱力するように大きく息を吐いた。


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