第29話・遠方より人来たる・07


「まーたトラブってんのか……課金回りはどうしてもなぁ。

 返答のテンプレ書かねーと」


夜の0時を回った頃に来た仕事のメールを前に俺はため息をつく。


しかし、武田さんの話じゃないけど―――

便利な雑用係とはよく言ったもんだと思う。

こういうクレーム処理からシナリオ、イベント、スケジュール……

発注にスクリプト演出など、出来る事は全部って感じだからな。


「あの、安武やすべさん。起きていますか?」


「え? 武田さん?」


俺は寝室(本当の寝室は別にあるのだが部屋の移動が面倒で、仕事部屋に

ベッドを持ち込んで寝室兼となった部屋)の向こうから聞こえてきた声に

振り返り、扉を開ける。


「どうしたんですか武田さ……!?」


その姿を見て俺は硬直する。寝間着として何かを羽織はおってはいるが、

ほとんど下着姿の彼女がそこにいて、俺は思わず目をそらす。


「んなっ、な……! どうしてそんな格好を!?」


「あっあの、安武さんは倉ぼっこさんや野狐やこさんとは何の関係も無いって

 言いましたよね?」


「い、言いましたけど……」


「なら、大人の女性なら問題無いって事ですよね!?」


「どこからそういう結論に!? 結構長い旅ですよそれ!!」


俺は彼女と向かい合いつつ方向を変え、何とか後ずさりしながら

後ろ手で扉を開けようとするが、


「あ、あれ? 開かない?」


「倉ぼっこさんから―――

 『僕は長年自分がいる建物なら全て管理下に置ける』、と」


「何やってんのアイツ!?」


確かに倉ぼっこは人外だし、そういう能力があったとしても不思議では

ないけれど。


「あのう、そんなに私はお嫌でしょうか?」


「へっ!?」


急に話が変な方向に飛ぶ。そこで頭を冷やし、考える。

これ、迫られているんだよな……?


「い、いやそんな事は……む、むしろ俺のどこにそんな―――」


「全部です! 一緒に仕事した時からです!」


一目れされたっていうのか?

確かに武田さん結構美人だし、性格も一緒に仕事していて知っているし、

それはそれで嬉しい話ではあるんだけど。


「えっと、そ、その……こんなオッサンで良ければ?」


すると彼女は俺に抱き着いてきて、


「やったぁああ!! よろしくお願いします!!


 あ、あと倉ぼっこさんからその手の動画で、結構エグいものも

 好きだとも聞いております!

 なので今からでもどうぞお好きなように―――」


「何やってんのアイツ!?」(二度目)


という俺の叫びと共に武田さんが覆いかぶさるようにして、

そのままベッドへと押し倒された。




「おっ、始まったよ?」


「録画の準備はバッチリです! だ、だけど気付かれないでしょうか。

 こんな事して」


「どうせやっている時は2人ともケダモノのようになっちゃって、

 周囲に気を配る余裕なんてないっぺよ」


俺はこの時、こっそり部屋を録画していた人外3人に気付かず―――

また録画された動画は数年後に発覚し大騒動になるのだが、それはまた

別のお話。


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