第282話・契約


「はあ、そんなにあっさりと契約書にサインしたんですか」


数日後、俺は東北の家で―――

雲外鏡うんがいきょうさんから事の次第を共有してもらっていた。


『そうだな。こちらは金を払い、彼は実験対象として肉体を提供する。


 実際に金も振り込んだし、それを見たら勝ち組だ何だとわめいていたよ。

 こちらも思う存分やれるってワケだ』


彼の話からすると、亮一りょういちは当分の間監視下に置かれ、

軟禁状態になるらしい。


「しかし、契約内容って……

 『新薬の完成および副作用の完全な安全性の確認まで』でしたっけ?


 それまでずーっと外に出られない生活って、わかっているんでしょうか?」


『さてなあ。

 あちらさんの頭の悪さまでは知った事ではないからな。


 まあ、副作用の完全な安全性の確認はこちらで決めるので―――

 下手をすれば一生かも知れんが」


昔からアイツは自分が頭が良いと思い込んで、それで結構痛い目に

あっているはずなんだが。


目先の金に釣られて、深く考えずにサインしたんだろうなあ。


『それと、安武やすべさんの提案で……

 実家のご両親にもお伝えするようにと彼に言ったからね。


 お2人とも、やっと定職に就いてくれたと泣いて喜んでいたそうだよ』


アイツが行方不明になったと知ったら、まずあの母親ババアが間違いないく

騒ぎ出すだろうからな。

そこでそちらも手を打っておく必要があったのだ。


「ま、これであのバカも少しは―――

 世のため人のため、あやかしのためになれるでしょうよ。


 今アイツはどうしていますか?」


『一応、身の回りの世話は飛縁魔ひのえんまと雪女にやらせているからな。

 ご機嫌のようだよ。


 まあ真相を知って暴れたりしたところで、あの2人には敵わんだろう。

 しばらくはいい夢を見させてやるつもりだ』


それを聞いた後、お互いに2人で笑い合い……

俺はスマホでの通話を終えた。


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