第124話・仕事っぷり


「そろそろ時間かな」


俺は料理―――と言っても、鍋に具材をブチ込む程度のものだが、

その作業をしながら、夕食の支度をしていた。


「しかし、どの野菜も魚も肉も美味しいべな。

 さすが老舗旅館の食材だべ」


褐色肌の青年が、味見をしながら感想を口にする。


「そういえば銀、旅館に手伝いに来てくれって言われているんだっけ?」


老舗旅館『源一げんいち』から……

何でも男手が欲しいという事で誘われているらしい。


「ああ。ミツさえよければ行こうと思っているんだべ。

 オラもここだけじゃなく、社会勉強は必要だと思って」


「俺は別に反対しないぞ?

 理奈も詩音も職に就いたし、やりたいのならどんどんやってみるべきだ」


「ミツならそう言うと思っていたべ。

 じゃあ、来月あたりから行ってみるべか」


そこへ加奈さんがやって来て、


「あ、銀様。私も手伝いましたのに」


「鍋物だからそんなに手間はかからないっぺよ。


 じゃあ、そろそろ他の3人を呼んで来て欲しいっぺ」


川童かわこが彼女にお願いすると、すぐに二階へ上がり―――

そして裕子さん、理奈、詩音の3人と一緒に下りてきた。




「おー、理奈の仕事はそんな感じだべか」


「ミツとゆーちゃん、加奈ちゃんと一緒の仕事場だからねー。

 ある意味一番安心だし」


鍋をつつきながら6人で食卓を囲む。

ちなみに琉絆空るきあさんと鬼っ子の舞桜まおさんは、

昼食後にトレーラーハウスへ行って不在だ。


「僕はそんな事情で大丈夫だけど、しーちゃんはどう?」


倉ぼっこが野狐やこに話を振ると、


「男性相手の接客と聞いていたのですが、アタシ目当ての女性客が多くなって

 困惑しています。


 まあ、空き時間にショッピングとか同僚の方々に付き合って頂いて

 おりますので、充実してはいますけど」


複雑な表情の『彼』を前に、他の女性陣はうんうんとうなずく。


男装の麗人の逆バージョンといったところだろうか。

歌舞伎かぶき女形おやまも女性の追っかけが多かったと聞くし、

まあ仕事に不満が無いのならそれが一番だろう。


「でも詩音さん、秋葉原で働いているんでしょう?

 理奈さんや満浩みつひろさんと同じようにリモートでは無理ですし……


 いっそ私と一緒の生活スタイルにしてみますか?

 私なら東京に一人暮らし用のマンションがありますから」


あ、なるほど。

何も全部俺の行動スケジュールに合わせる必要は無い。


裕子さんと一緒に行動すれば東京にいる時間も長くなるし―――

何なら詩音だけ、東京の彼女の家で留守番も可能となる。


「そうですね……

 同僚やお客様からも、なるべく勤務日数を増やして欲しいと

 言われていますし。


 いずれお言葉に甘えるかも知れません」


そして鍋の具材はすっかりなくなるまで話は続き、


「じゃあシメはうどんにするかー」


その言葉に、待ってましたと言わんばかりに女性陣から歓声が上がった。


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