■10章 『魔』

第271話・宴会02


「ふぅっ」


「はぁ」


俺が少し夜風に当たろうと、旅館の中庭の庭園に出ると―――

同じタイミングで雲外鏡うんがいきょうさんも出て来た。


お互い話す事もなく、しばらくその辺を散策していたが、


「……あまり賑やかなのは苦手でね。

 人間の頃から、飲み会や宴会は気が進まなかった」


「意外ですね。

 飛縁魔ひのえんまさんや一つ目小僧さんたちのリーダーと

 聞いてますけど」


彼から話を振られ、俺もそれに受け答える。


安武やすべさんも彼らのリーダーでは?」


「へっ!? いや、どうしてそんなふうに思うんですか?」


銀や理奈とは幼馴染というだけで、詩音はあちらから押しかけて来たのだ。

舞桜まおさんだって成り行き上、関わったようなもので……


「え? 違う?」


「自分から積極的に関わったわけじゃありませんよ。

 どちらかというと、巻き込まれたような関係です」


俺が頭をかきながら言うと、


「そうなのか……


 いや、何かと言うとあなたの名前が出て来たのでね。

 旅館もそうだし、いろいろと手伝って頂いて何だが。

 身分証明なども―――」


「まあそこは、先に弥月みつきさんたちと知り合っていたというのも

 ありますしね。


 それを言うのなら雲外鏡さんもかなりの世話焼きでしょう?

 妖怪たちのためにこちらに頼み込んだりして来て」


「関わった以上、無下に見捨てるのも、な。

 だがこうまで彼らが、人間社会に溶け込めるとは思わなかった。


 人間に化けていたとしても……

 俺の方では、あそこまで彼らが生き生きとしているビジョンは

 見えなかったよ」


リーダーとしての責任感はあるんだろうな。

それと俺と同じ、何だかんだ言って頼って来た者のために何とかしようと

動く、親近感みたいなものも覚える。


「彼らはこのまま、ここで住まわせるんですか?」


「希望するなら別段それでもいい。

 だが、正直こうまで化けるとは思わなかったからなあ。


 時々はこちらの仕事も手伝ってもらいた―――ッ!?」


いきなり彼は振り返ると、月明かりの下にそれはいた。

新卒のサラリーマンとでも言えばいいのか、リクルートスーツに

身を包んだ若い男性……


「はは、おこんばんは」


その青年は微笑むと、俺たちにむかってお辞儀をした。


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