青年期 133

…そしてギルドで待つ事10分ほどでお姉さんを含めた隊長達が集まってくる。



「みんなお疲れ様。集めた理由の方は聞いてるかも知れないけど…急に退却した敵の狙いについて今の内に話しとこうかと思って」


「敵の狙いか…」


「町の占拠だと思ったが、その話振りでは違うようだな」



俺が労いの言葉をかけて早速本題に入ると隊長の二人が考えるように返す。



「信じる信じないは任せるし、俺も本当かどうか分からないんだけど…なんか敵は『大いなる力』とやらの鍵と敵対派閥に対する人質の確保が目的だったらしい」


「「「「『大いなる力』?」」」」



俺の説明にお姉さんを除いたみんなはやっぱり不思議そうな感じで反応した。



「聞いた話ではその敵対派閥のなんとか公って貴族は神話とか伝承の話を本気で信じてるらしい」


「あれ?実際行動に移してるのは宗教団体の方じゃないですか?貴族は傀儡って言ってましたし」


「…だったっけ?まあとりあえず敵の目的は鍵と人質の確保だったわけだけど…一昨日ぐらいに既にこの町から逃げ出してるんだよね」


「…なるほど。だから急に退却したわけか…」



俺が知ってる範囲での情報を話すとお姉さんが訂正するように確認し、俺はそれを受け入れるように話すと隊長の一人が納得したように呟く。



「…ちょっと聞きたいんだけど、敵の目的である『大いなる力』っていうのはなんなの?」


「さあ?『鍵』とか言ってたぐらいだから封印を解くとか儀式で何かを召喚するとか…もしかしたらなんかすっごい兵器が使えるようになるとかそんな感じじゃない?」



隊長の問いに俺は適当な感じでパッと思いついた事を話す。



「…神話や言い伝えとか言っていたな…」


「疫病が流行ったり、昔の権力者が大勢殺した事を『大いなる力』って比喩してたりしない?」


「宗教ならばありえるか…」


「まあでも俺らには関係の無い事だし。他所の国の事情に首突っ込んでもしょうがないでしょ?」


「…それもそうだな」


「確かに」



隊長達が予想するように話し合うので俺が話を打ち切るかのように言うと隊長達は同意する。



「ですが…その『大いなる力』が精霊と同様に実在するとすれば大変な事になりますよ?」



が、お姉さんは心配そうに万が一の最悪な事態を想定するかのような事を言う。



「…うーん…そりゃそうだけど…」


「大変な事?」


「それほどなのか?」


「その力を手に入れる事が出来れば、この国だけじゃなく周辺国…世界までも支配する事が出来るようになるらしいです」



俺が微妙な顔で呟くと隊長達が不思議そうな顔で聞き、お姉さんは男達から聞いた情報を教えた。



「…まさに神話の世界、だな」


「まるで御伽話のようだ」


「でもそんなのが実際にあるとすればなんで今のタイミングで?もっと前…昔にその力を手に入れてれば今頃この国が世界を支配してたんでしょ?」


「確かに。なんで今なんだろ?」


「それは…」



隊長達が俺みたいに微妙な表情になる中、一人の隊長が疑問を尋ねると別の隊長も納得しながら疑問に思い…お姉さんは言葉に詰まったように呟く。



「…時期とか周期とかのタイミングが合わなかったか、鍵が最近になってようやく見つかったか…それなりに大きなデメリットがあって避けてたか…」


「あー、そっか。だよね」


「そんな簡単に出来る事ならとっくにやってるよね。変な質問してゴメン」


「いえ…私もそこまでは考えが及ばなかったので…」



前世の記憶によるぼんやりした知識での予想に二人の隊長は納得したように言い、一人が謝るとお姉さんは謝罪を拒否するように手を振りながら返す。



「『それなりに大きなデメリット』か…」


「『大いなる力』と称されるほどの強大な力ならば当然何かしらの犠牲や対価はつきものだろうな…」


「魔力を使って魔法を放つ、時間と体力を消費して筋力をつける、時間と精神を削って魔力量を増やす…何かを得るには何かを差し出すのが『世の理』だ」


「俺らが生きるのも他の動物や植物といった生物を犠牲にしてるからなぁ…」



…隊長の一人の呟きに他の隊長達が考えるように呟くと何故か哲学に近い感じの話へと流れていく。



「つまり…相手はその『大いなる力』を手に入れるには何を差し出すか、って事ですね…」


「うーわ、『宗教』と『差し出す』が一緒になると生贄しか出て来ない」


「流石に生贄までは……どうだろ?」



お姉さんが話を整理するかのように言うと隊長の一人が頭を抱えるように嫌そうな顔でヤバい方向の考えを口にし…



他の隊長は否定しようとするもさっきまでの軍の行動を思い出してか嫌そうな顔で否定出来ない感じで返す。



「…流石に金にならないのに危険な事はしたくないけど…もしなんとか公ってのが一般人達を対象にソレをやらかすってんなら俺らも黙って見てるワケにはいかないね」


「うむ…罪の無い市民が犠牲になるのなら国とか関係なく助けねば…」


「流石にそのような状況を放っては置けまい」


「…うん」


「…だよね」



俺がかなり最悪の地獄のような状況を想定しながら言うと流石にみんなも見捨てられないのか俺の考えに賛同してくれる。

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