青年期 247
「…そうか、だが残念ながら君の希望には添えない。此度の戦は皇帝陛下の決定なのでな、陛下を説得しない事には我々の…自己の判断で戦を勝手に終わらせる事は不可能だ」
「なるほど…それは確かに。では皇帝陛下に会わせてもらえますか?」
「分かった。ついて来るがいい…謁見ぐらいならば可能だ」
「えっ!?」
おじさんが拒否った後に理由を話してくれるので分身の俺は理解を示して確認すると、おじさんは了承して立ち上がり、その対応を見て女の子が驚く。
「ありがとうございます。優秀で有能な人だと話が早くて大変助かります」
「…なにそれ、私への当てつけのつもり?」
「ん?心当たりがあったりする?」
「うわウザっ」
分身の俺はお礼を言った後に女の子をチラッと見ながら褒めると女の子が不機嫌そうに返し、弄るように聞くと罵倒してくる。
「…珍しいな、君はアズマ中将の友人なのか?」
「いえ、『会ったのは』今日が初めてです。と言うか自分は見たのも今日が初めてですね、まさか女だったとは…思いもしませんでした」
「ほう、会ったばかりでもうその仲の良さか。人の縁とは不思議なものだ」
歩きながら意外そうに尋ねるおじさんに分身の俺が否定するように返して感想を話すとおじさんは軽く驚いたように言う。
…それから無言のまま案内するおじさんの後について行くと建物の最上階の奥へと通された。
「…陛下。少々お時間よろしいでしょうか?」
「…入れ」
ドアの前に居る衛兵がめちゃくちゃ警戒した様子で分身の俺を睨みつける中、おじさんがドアをノックして確認すると入室許可が下りる。
「…ディバルザー元帥とアズマ中将と…誰だ?」
「お初お目にかかります皇帝陛下。私は…」
「いい。そんな事よりさっさと用件を言え」
めちゃくちゃ若い20代中盤から後半の青年が不思議そうに分身の俺を見るので、分身の俺は軽く頭を下げて自己紹介をしようとするも遮られて催促された。
「では。魔法協会から手を引き、大公国から全兵を退却させて下さい」
「…何故だ?現状では我々帝国側が優勢と聞く、その状況下で兵を引き上げさせる意味も理由も分からんな」
分身の俺のお願いに青年は眉をひそめながら聞き、却下するように返す。
「このまま戦争が続けば帝国側は全滅します。どうかお考え直しを」
「… ディバルザー元帥。どう判断する?」
「現状、報告されている上での情報から勘案するにあり得ない事かと。中将、陛下に現場の状況を報告したまえ」
分身の俺がそう告げると青年はおじさんに話を振り、おじさんは否定的に答えて女の子へと話を振る。
「はい。新しい状況報告と致しましては昨日、時刻は不明ですが…町と町の間に設営していた中継基地が二ヶ所、破壊されました」
「三ヶ所ね。あと町も一つ奪い返されてる」
「…との事です」
女の子は青年に戦場の現状を報告するが分身の俺が訂正を入れるとそのまま受け入れるように告げた。
「ほう?ついに敵が反撃してきたというわけか…しかしここから反転攻勢に移ったとて全滅の可能性は低いのでは無いのか?」
「お言葉ですが陛下、大公国の海岸に設営された拠点…港が破壊されてしまえば帝国軍の退路が絶たれ、他の中継基地も破壊されてしまえば兵站の維持もままならなくなります」
青年の意外そうに呟いての確認に分身の俺は反論してこれからやる作戦とソレをやられた場合の危険性を説明する。
「海路が使えなければ陸路を使えばよかろう」
「それは難しいかと思われます。彼の情報が正しければ我々帝国軍は兵站に不安を持つ状況で他の敵国を強行突破しなければ帰還出来ない事になり、士気の維持が困難になりますので彼の言う通り全滅の危険性が高まるかと」
青年が反論するように言うがおじさんに逆に反論されてしまう。
「…アズマ中将。海岸の拠点の守りとは簡単に突破出来るほどに薄いのか?」
「それはあり得ません陛下。本来なら…普通であれば近づく事すら不可能でございます」
「ならば心配はあるまい」
「『普通』を想定しているのならば、間違いはございません。あくまで『普通』を前提にしているのであれば、ですが」
青年の確認に女の子は即答に近い感じで前提ありきではあるけどもキッパリと否定するので青年が楽観的に返し、分身の俺は含みを込めて警告するように告げた。
「その言い方だと敵の取る手段について何か情報を掴んでいるように聞こえるが…」
「…先ほど、中継基地が破壊された…という情報を自分と彼女が話しましたよね?」
「ああ」
青年が確認するように呟き、分身の俺が確認すると肯定する。
「アレは一夜にして…いえ、一瞬で中継基地が消滅するほどの威力がありますので、海岸の拠点に狙いを定められてしまえば防ぐ手立てはありません」
「…どのような魔法だ?」
「…そこまでは…」
分身の俺の説明に青年は真剣な顔で尋ねるが、教えるわけにはいかないので分身の俺は知らない振りして呟く。
「あの魔法協会ならばそのような奥の手を隠していたとしても不思議ではありません。そのような強力な攻撃ならば制約もあると思われますが…それよりも彼の話が正しければ一刻も早く兵を退却させるべきかと」
するとおじさんが分身の俺の話に信憑性を持たせるかのような事を言い、青年に退却を視野に入れた進言をしてくれた。
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