青年期 246
…そして女の子に案内される事、約15分後。
宮殿のような建物の前で女の子の足が止まった。
「…中では下手に喋らないでよ。ココは帝都軍の本部だから士官や将官の人達が集まってるんだから」
「へー…」
女の子は分身の俺に釘を刺すように説明すると門の隣にある守衛室みたいな所に居た兵と少し話して門を開けさせる。
「この中で面倒ごとを起こしたらあっという間に囲まれるからホント気をつけて。私は庇えないからね」
「はいはい。そうなったら誰か人質でも取って交渉するかな」
女の子の念を押すような注意と警告に分身の俺は軽い感じで了承し、最悪の事態になった時の対策を立てた。
「ん?アズマ中将!お疲れ様です!現在はトゥレット大公国に赴いているのでは?」
…宮殿のような建物の中の廊下を歩いていると俺らよりちょっと若そうな青年が声をかけてくる。
「元帥に報告があって。彼がどうしても…って言うから…」
「お疲れ様です」
「…帝国の人間では無さそうですね…アズマ中将に迷惑はかけるんじゃないぞ。では、自分はこれで」
女の子が分身の俺を見ながら仕方なさげに言い、軽く挨拶すると青年は警戒した様子を見せた後に注意して歩いて行く。
「…うん?これは…アズマ中将ではないですか。なぜこんな所に?まさか逃げ帰って来たわけではありませんよね?」
そこらの部屋から出て来た男が女の子を見て驚いた後にニヤニヤ笑いながら嫌味だか皮肉のような言い方をしながら話しかけてきて…
「げ。…元帥に話しがあって一時的に戻って来ただけで、用が済んだら直ぐに戻るつもりだから安心して」
女の子は露骨に嫌なそうな反応をした後に否定してシッシッと男を追い返すように手を振った。
「話。もしや後ろの彼との結婚報告でも?ついに身を固める決心がつきましたか。いやぁ物好きな彼のおかげで行き遅れにならずに済んで良かったじゃないですか。我々も一安心ですよ、ははは」
「ははは」
「笑うな!そういう報告じゃないっての!行くよ」
「では失礼します。お疲れ様です」
男が勘違いするように言って笑うので分身の俺も合わせて笑うと女の子に怒られてしまい…
分身の俺は男に対して笑顔で軽く頭を下げ、挨拶をしてから早足で歩いて行った女の子を追いかける。
「…最悪…会いたくない内の一人に会うとか運悪…もー、ムカつくわー…」
「まあでも言い方は確かにアレだけど、内容は正しい感じだったからなぁ…」
「正論だから余計にムカつくんでしょ。的外れだったら指摘して仕返ししてやるのに」
ブツブツと愚痴を呟く女の子に分身の俺がさっきの男を若干庇うように返すと女の子はイラつきながら返す。
「…多分ココに居る…はず」
女の子はとある部屋の前で止まると不安そうに言ってドアをノックした。
「入りたまえ」
「…失礼します」
「失礼します」
入室許可で出ると女の子が緊張した顔で挨拶しながら部屋の中に入り、分身の俺も挨拶して入室する。
「用件はなんだね?アズマ中将」
「そもそもトゥレット大公国での戦時中に何故戻って来た?」
椅子の背に腰掛けた60代…いや、50代後半にも見える白髪メッシュのおじいちゃ…おじさんが用件を聞くと…
机の左側に立っていた補佐か秘書であろう30代の男の一人が険しい顔で責めるように理由を尋ねた。
「…人払いをお願いしてもよろしいですか?」
「ふん、我々を邪魔者扱いか。偉くなったものだな」
「…口が過ぎるぞ。彼女にそのような意図が無い事ぐらい汲み取れるだろう」
「はっ、どうだか。じゃあ厄介者は出てってやるよ」
女の子の確認に左側の男が嫌味と皮肉を言うと右側のもう一人の男が注意して返し…男は肩を竦めながら鼻で笑い、部屋から出ていく。
「…すまないな。どうも君をライバル視しているようで、君の活躍が気に入らないようだ」
「いえ…」
「あまりに目に余るようなら私か閣下に言ってくれ。一線を越えないよう注意するから」
「ありがとうございます」
もう一人の男が申し訳なさそうな顔で謝ると女の子は反応に困ったように返し、気を遣った発言に女の子がお礼を言って軽く頭を下げると男も部屋から出て行った。
「…なんか正反対の二人だな…」
「ああ見えてあの二人めちゃくちゃ有能で実力者だったりする」
「へー、流石に元帥の補佐ともなれば能力主義か。俺でも採用されそうだな」
「…あなたは補佐とかいう器じゃないでしょ。絶対に収まり切れないと思う」
分身の俺の意外に思いながらの感想に女の子が紹介するように返し、分身の俺が楽観的に言うと女の子は微妙な顔をする。
「…アズマ中将、用件はなんだ?」
「あ。えーと…」
「俺から話すよ。用があるのは俺の方だし」
おじさんが再度尋ねると女の子が言葉を選ぶように考え始め、分身の俺は女の子とおじさんにそう告げた。
「ほう…では聞こう。話したまえ」
「ありがとうございます。では単刀直入に…魔法協会から手を引き、大公国にいる兵達を引き上げさせて下さい」
おじさんの意外そうな反応からの催促に分身の俺はお礼を言って用件を話す。
「…ふむ…断る、と言ったら?」
「聞かなくても分かるでしょう?」
おじさんは少し考えてニヤリと笑い、駆け引きでもするように確認するので分身の俺は笑いながら世間話でもするかのような軽さで返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます