青年期 63
…それから男性からこの都市の防衛に関する情報や注意事項など、引き継ぎのように色々な話を聞いての翌日。
「…なんかこの都市の中に敵の内通者が居る…って話は昨日聞いてたでしょ?」
「うむ」
「僕たちに依頼した理由を話してた時だよね?」
俺が隊長達を集めて確認すると隊長の一人が相槌を打って一人が確認し返す。
「そうそう。将軍の予想では10人近く居るみたいで…このエリアは俺ら以外出入りしないから安全だけど、もし外に出る場合は必ず3人以上での複数行動をとるよう団員達に徹底させて欲しい」
「「…闇討ちか…」」
俺の注意喚起に意図を察した隊長二人の呟きが被る。
「可能性が高いとは言えないけど低くもないはずだからみんなにちゃんと理由を話してね。ダンジョン内と同じぐらい警戒した方がいいかも」
「単独行動は危険というわけか。分かった」
「了解だ」
「承知した」
俺が説明して指示を出すと隊長達はみんな了承した。
そしてその翌日。
依頼主である将軍が騎士団や兵士を引き連れて王都へと移動をする。
「…治安維持部隊以外の兵は全て連れて行かれましたね…守兵ぐらいは残すと思ってましたけど…」
「俺らへの嫌がらせなのか、敵対勢力の襲撃を警戒してるのか…流石に嫌がらせは無いか」
お姉さんの困ったような呟きに俺は予想しながら返す。
「まあとりあえず捕虜の身代金は将軍が立て替えて払ってくれたし…みんなに分配しないと」
「相手の貴族に恩を売るためとはいえ、ありえないようなとんでもない額でしたね」
「身代金で億を軽く超えるなんてこの国の貴族の価値ってのは凄いもんだ」
俺は話を変えるように将軍がこの都市から出て行く前に支払ってくれた身代金の話をした。
ーーーー
「…じゃあお願い」
「分かりました」
「お任せ下さい」
俺が事務作業員を兼任してる団員達を集めて報酬の分配をお願いすると団員達は急な仕事にも関わらず了承して作業に移ってくれる。
「さて…じゃあ観光にでも行こうか」
「はい!」
外の見張りや食料の買い出しは隊長達が各自話し合って役割を決め…
特に見張りは治安維持部隊と協力してやってくれるようなので、何か起きない限りは俺のやる事は何も無い。
なのでとりあえずお姉さんを誘って都市の様子を見て回る事に。
「流石に市場とか凄い活気づいてますね…」
「第二の王都って呼ばれてるだけはあるね。俺らの国の王都と同じぐらい賑やかじゃない?」
俺らが割り当てられた区画から少し離れただけでワイワイ賑やかな様子になり、お姉さんが軽く驚いたように言うので俺も同意しながら比べるように返した。
…そんなこんなお姉さんと食べ歩き観光をする事、二時間後。
「お。ちょっと見ていい?」
「どうぞどうぞ」
大通りから少し離れた通りにある露店で本が積み重ねられて売られているので、俺が掘り出し物があるかな…?と思いながら確認したら店主であろう男の人は笑顔で了承する。
「…なんか古そうな本ですね…」
「昔の本だからね。そりゃ古いよ」
お姉さんも一冊手に取ってパラパラ…と本を流し読むようにして呟くと店主が笑って肯定した。
「…料理の本とかある?」
「料理の本?どうだったかな…俺も本の内容を全て把握してるわけじゃないから…」
俺の問いに店主は困ったように呟いて一応積み重なってる本を取って確認してくれる。
「…残念ながらウチには無いみたいだ。他の所には置いてあるかも知れない。この通りには大陸や島国といった珍しい所から流れてきた本を置いてある店もあるからな」
「そう?ありがとう」
店主は親切にも他の店を薦めてくれるので俺はお礼を言って手に持っていた本を置く。
「…この通りは露店が多いね。その分珍しそうな物もいっぱいありそうだけど」
「見て回るのに一日じゃ足りないかもしれませんね」
…今の所で本を確認するだけでも30分近くかかったのに…
通りにズラリと並ぶ露店を見ながら俺が微妙な顔で言うとお姉さんは嬉しそうに返した。
「…コレはなんだろう?」
「ソレはお香さ」
「へー、お香か」
「坊ちゃん、見て下さい。裁縫用にしては長い針がありますよ」
「嬢ちゃん、コレは裁縫用じゃなくて医療用だ。大国の清では人に針を刺す治療法がある」
「針治療ってヤツだね」
「へー、そんなのがあるんですね」
…露店の物を見てるだけでどんどん時間が過ぎていき…
店じまいする所も出てきたところで気づけばもう夕方になっている。
「おっと、そろそろ帰ろうか」
「そうですね」
辺りが暗くなる前に…と、俺らは割り当てられた兵舎の区画へと戻る事にした。
「いやー、しかし見て回るところがいっぱいあって暇しないからこりゃ一月なんてあっという間だね」
「ですね。当分は露店回りで忙しそうですし」
俺が観光気分でウキウキしながら言うとお姉さんも同じように嬉しそうに賛同すると…
「…ん?」
何かが俺の背中に当たる感触が。
人通りの多い大通りだから誰かが軽くぶつかってきたのかな?と思いながら振り向くと…
ローブを被った人が俺の背中に刃物を刺そうと先端を押し当てている。
「チッ…!…なっ…!?」
おそらく内通者や工作員であろう人は舌打ちをして力を込めるが刃物が全く刺さらないことに驚く。
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