青年期 62

「…そういうのは前もって言おう?そしたらわざわざ戦わずに脇を突破だけで済んだのに」


「いや、実力を試したくて…」


「交戦したのか!?…本当に良くぞ無事で…!運が良かったですな」


「…将軍。その件で少し話が…」



俺がため息を吐いて注意すると男は言い訳するように呟き、男性が驚きながら言うと男が追加報酬の話を切り出す。



「………!?なんだと…!撃退しただと!?しかもたった1000人の部隊で!」



我が騎士団でも1000人だけでは…!と、男性は男の報告を聞いて驚愕しながら俺達を見る。



「……そうか。分かった、追加報酬の件は前向きに検討しよう」


「はっ!ありがとうございます!」



更に報告を聞いた男性は政治家のような事を言い出し、男が会釈するように軽く頭を下げてお礼を言う。



その後、そのまま男性についていくと三つ目の壁を通って城の中へと案内された。



「うへー…城も大きいな…」


「ははは、この都市の最期の砦であるこの城はかなり堅牢に改修してある。兵が1000人も居れば万の軍勢に包囲されようとも落とされる事は無い」



無論兵士の数が多ければ敵の撃退も容易い。と男性は自慢げに話す。



「それほど難攻不落の都市ならば我々の出番は無いのでは?依頼書には『防衛』と書かれていましたが」


「実は王都に呼び出されてしまい、一月ほど留守にせねばならなくなった」



俺の問いに男性は困ったように笑いながら事情を話し始める。



「王都に?」


「ほぼ確実に敵対派閥の仕掛けた罠だ。つい先日、私を王都に誘き出してこの都市を乗っ取ろうとしている…という情報を手に入れた」


「…たとえ指揮を執る人がいなくなったとしても守る兵が居ればそう簡単にはいかないと思いますが…」



俺が不思議そうに尋ねると男性が内部政争に関する事を言い出すので俺は否定的に返した。



「おそらくこの都市の中に内通者や工作員が潜んでいる。その情報を掴み、炙り出そうとした矢先にコレだからな」


「なるほど…どうやら敵はかなりの切れ者のようですね」


「そうだ。なので信の置ける者にしかこの都市の防衛は任せられない…そこで団長殿の傭兵団に依頼を出したのだ」


「敵国の傭兵で、しかも一度負けた相手ですよ?信頼や信用なんて出来ます?」



男性の話を聞いた俺は困惑したように笑いながら尋ねる。



「ふっ…ふはは!ははは!」



すると男性はなぜか声を上げて笑い出した。



「…ならば逆に問おう。なぜ貴殿らは依頼を受け、こんな敵国の深い所までやって来た?」


「報酬や条件が良かったからです」


「ソレが罠だとは思わなかったのか?」


「当然考えました。もし罠なら罠で逃げればいいだけですから」



男性の問いに俺が率直に答えると試すように尋ねるので俺は肯定してその場合の行動を告げる。



「ふっ…なぜ罠だと思いながらわざわざ部下達を危険に晒すような真似を?」


「良い経験になると思いまして。辺境伯にお願いして動いてもらえば逃げるのなんて簡単ですからね」



男性が更に問答を続けるので優しい俺が付き合ってあげると…



「ふふふ…それだけでは無いはずだ。貴殿らは依頼主である私を『信頼』し、ここまで来た。万が一の罠じゃない可能性を『信じた』のだろう?」


「…その通りです」



男性はまさかの見透かしたような事を言い出し始め、俺は意外に思いながら肯定した。



「…少々意地悪が過ぎたか…つまりは私は君個人に信を置いているのだ。この前の時のやりとりや他の国との戦争の情報を聞いて、な」


「…ありがとうございます」


「あの戦いを通したからこそ、君は人を裏切るような人物では無い事が分かった。でなければ周りに人が集まるはずが無い」



信の置けぬ自国民よりも他国だろうが敵国だろうが…信の置ける個人に頼んだまでよ。と、男性は長々と俺らに依頼した理由を話す。



「期待に応えられるよう努力します」


「まあそう固くならずとも良い。団長殿になら安心して留守を任せられるからな」


「頑張ります」


「ところで…兵の宿泊先なのだが二カ所用意してある。内側の兵舎区域と外側の商業区域、どちらがよいか?」



俺の返事に男性が笑いながら返し、とりあえず相槌を打つように言うと男性は滞在先の選択肢を挙げて判断を委ねてくる。



「…では外側でお願いします。敵が攻めて来た時に近い方が直ぐに対応にあたれますので」


「ははは!流石だ、そう言うと思っていた」



俺が選択して理由を話すと男性は笑って褒めるように言う。



「…さて、では雇用契約を結ぼう。期間は一月、内容はこの都市の防衛だ…問題は無いか?」



…俺らを城の謁見の間っぽい所まで案内すると男性は玉座のような椅子に座りながら内容を確認してきた。



「はい」


「…では契約書にサインを」



俺が了承すると途中から居なくなっていた案内役の男が紙とペンを持って部屋の中に入って来ると俺に渡してくる。



「…はい」



俺は契約書の内容が依頼書と全く同じである事をちゃんと確認してからサインをして、案内役の男に返した。



「…確かに。ではコレで契約完了になります」


「うむ。では傭兵団の兵達を外側の区域に案内してくれ。団長殿は少し話があるので残ってもらいたい」


「分かりました。んじゃ、みんな俺が戻るまで各自休憩で」


「分かった」


「了解だ」


「こっちだ」



男性が俺だけ引き留めるので団員達に指示を出すと、案内役の男が男性に紙を渡してみんなを案内するように連れて行く。

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