学生期 弐 7
…それから数日後。
「いやー、坊ちゃんとダンジョンに来るのも久しぶりですね」
学校が休みの日にいつものように外出届を出してダンジョンに行くと、ついて来たお姉さんが懐かしそうに言う。
「そうだね。もうアレから一年経つって考えたら早いなぁ…」
「ですね…小さい頃はよく泣きながら『アーシェ治して~』って縋ってきた坊ちゃんがもうこんなに大きく…」
俺が懐かしく思いながら呟くとお姉さんも懐かしむように呟いた後に意地悪な笑みを浮かべて弄るような昔話をしてくるので…
「ははは、先生も見た目は若くても精神はもうおばさんだね。そんな昔の話をし出すなんて」
俺は余裕の態度で笑いながらお姉さんに反撃した。
「む。坊ちゃんダメですよ女性にそんな事言っちゃあ。デリカシーに欠ける発言ですよ、今のは」
「ソコはお互い様でしょ?誰にだって触れられたくない部分はあるんだから」
「むぅ…」
お姉さんのムっとしながらの注意に俺が余裕の態度を崩さず笑ったまま返すと、お姉さんは納得いかなそうな顔で呟いて引き下がる。
「じゃあ行こうか」
「はい」
…一瞬険悪な雰囲気になったものの気を取り直して俺がお姉さんに合図し、中級者用のダンジョンへと入っていく。
「今回は中級者用のダンジョンなんですか?」
「うん。中級者向けのダンジョンと悩んだんだけど…今回はココの方がいいかなって」
階段を降りながらお姉さんが不思議そうに聞いてくるので俺はちょっと考えながら答えた。
「おっと。いた」
「武装してるゴブリンですね。武器を持ってる分素手のゴブリンよりも厄介ですよ」
「知ってる」
第一階層の魔物であるゴブリンを発見するとお姉さんが情報を話すので俺は笑って返す。
「ギッ…!」
短剣を持ってバンダナを巻いてるゴブリンは普通に近づいてくる俺に気付くと素早い動きで距離を詰め、短剣で切りかかってきた。
「ギー!ギー!…ギッ…!」
ゴブリンは意気揚々と俺を切りつけてくるが服が切れていく程度で俺の皮膚にはかすり傷一つ付いていない。
なので短剣の先を右手の親指と人差し指で掴んで動きを止め、左手でゴブリンの首を絞めて倒す。
「…もう刃物ですらかすり傷一つ付かないんですね…」
「今やもうキマイラの爪や牙でも傷一つ付かないぐらいだし、この程度じゃあね」
その様子を見てたお姉さんが驚きながら呟くので俺は成長した事を告げて少し大きめの魔石や短剣、魔物素材を拾う。
「…じゃあわざわざ攻撃を受ける必要は無いのでは…?」
「ほら、一応修行だから。無傷で即倒して楽したら修行にならないじゃない?」
「…そんなもんですかね?」
「そんなもんだよ。鍛錬や修行ってのは」
お姉さんの不思議そうな確認に俺が理由を話すと微妙な顔で聞くので俺は笑いながら肯定する。
「まあ見といてよ」
通路を歩いてると剣を持ったゴブリンがいたので俺は笑いながらお姉さんにそう行ってゴブリンに近づく。
「ギ!…ギ…」
ゴブリンの振ってきた剣を俺は右手でいなし、左手で首を掴むと速攻で絞め落としてから倒した。
「ね?こんなんじゃ修行にならないでしょ?」
「…確かに。坊ちゃん凄く強くなりましたね」
「そりゃ毎日の鍛錬と毎週の修行を欠かさずに続けてたらこのぐらいは、ねぇ」
俺がお姉さんに確認を取るように聞くとお姉さんがしみじみと呟くので俺は笑いながら返す。
「上級者用までは場所にもよるけど普通に倒すだけなら変化魔法無しでもイケるし」
流石に魔石は取れないけど…と、俺はお姉さんに誤解されないようにちゃんと補足を入れる。
「…そこまで強いのなら余裕で学園のトップになれるでしょう?私が聞いた話では教師の人達はみんな坊ちゃんが戦ってる所を一度も見た事が無く、想像すらつかない…って言ってましたよ?」
「ははは、俺はそんな自己顕示欲の塊じゃないからね。もちろんみんなに自分の強さを見せつけたくなる時もあるけど、エーデルやリーゼには迷惑かけたくないし」
お姉さんが学校の実力ランキング…個人戦の事に言及しながら不思議そうに疑問を聞いてくるので俺は笑って一蹴し、学校で大人しくしてる理由を話した。
「でも坊ちゃんが強い方がその弟や妹であるエーデル様やリーゼ様も鼻が高いのでは?」
「うーん…そうかな…?あとここに来て後継者問題が拗れてくると厄介で面倒じゃない?」
「…あ。確かに…浅慮でした。すみません」
納得いかないように言うお姉さんに俺が疑問に思いながら返すと、それで察したのか頭を下げて謝罪する。
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