壮年期 48

「…魔族だかなんだか知らないが…この程度の雑魚じゃ暇つぶしにもなりゃしない」


「おそらく魔族の強さも人間や魔物のようにピンキリでしょ。まあそもそも魔族ってのがなんなのかも、出現条件も何一つ分かってない状況だけど」


「…姿から察するに魔物の亜種かと予想しますが…『魔族』という存在は魔法協会の文献でも見たことありません」


「私もだ。歴史ある魔法協会ですら情報が全く無いような存在が現れるなんて…」



変身を解いた女のつまらなそうな顔での発言に分身の俺が反論すると少女が考えるように言い、女が同意した後に考えながら呟く。



「とりあえず俺が知ってるのは千何百年か前に人類を滅亡に追い込むまでいって、精霊達が当時の人間達と契約して戦って勝った…って事ぐらいかな」


「千何百年か前…」


「下手したら魔法協会が設立するよりももっと前か…どこかのタイミングで伝承の断絶が起きて情報が残らなかったか、当時の誰かが故意に消し去ったか…」



分身の俺が適当な感じで精霊達との契約の時に聞いた話をザックリと話すと少女が年代について呟き、女は現代まで伝わらなかった理由を予想する。



「…その話はやはりあの精霊からですか?」


「あー、まあ、うん。そう」



少女の確認に分身の俺は正確には精霊達だけど…と複数系である事に引っ掛かりを持ちつつもとりあえず何も言わずに肯定した。



「他には何か聞いていないのか?」


「…うーん…聞いたような気もするけど思い出せないな…」


「ゼルハイト様はなぜ精霊に魔族の話をお聞きになられたのですか?」



女が興味深そうな様子で尋ね、分身の俺は少し考えてそう返すと少女が不思議そうに疑問を聞いてくる。



「俺が聞いたんじゃなくてアッチが勝手に話した」


「…どういうこと?」


「契約するために呼んだ時に『魔力の量が少ない』とか『質が悪い』とかボロくそに文句言われてね。昔の人間は~って感じで精霊が思い出話のように言ってた」


「…ゼルハイト様は確か魔法適性皆無なので魔力の量についてはかなりのモノだと思いますが…」



分身の俺の返答に女が不思議そうに返し、当時の状況を説明すると少女が驚いたように呟く。



「これでも一般的な魔力持ちの5倍から10倍はあるはずなんだけど…精霊達からしたらそれでも余裕で足りないんだって。五大精霊でもソッチぐらいの魔力量でようやく及第点や足切りレベルだと思うし」


「…禁術を施したメイディアほどの膨大な魔力量でギリギリ…?」


「まあだから俺の場合は魔石を対価に使って契約した」



分身の俺が軽い感じで返して女を指しながら言うと少女が驚愕した様子で呟き、分身の俺は聞かれる事を予測して先に自分の取った方法を話した。



「「魔石を…?」」


「そうそう。ソレで複数年契約をしたってワケ」


「…なるほど…魔石を…確かにそれならば自身の魔力量は関係なくなる…」


「でもそれじゃ召喚の時に魔力が足りなくなったりしないのか?」



少女と女の意外そうな反応が被り、分身の俺が肯定すると少女が納得して女は疑問を尋ねてくる。



「俺は一応召喚するだけ、なら精霊王まで召喚出来るよ。まあ一分ぐらいしか維持出来ないから戦ってもらうなんて無理な話だけど」


「「精霊王…?」」


「あとさっきみたいに魔石で魔力を回復してから召喚する手だってあるし」


「「なるほど。チャージ(か)…」」



分身の俺の説明と注意に女と少女は不思議そうな顔をするが無視して他の方法を話すとまたしても二人同時に納得する。



『…どうやら魔族を倒したようだな』


「「!!??」」



すると急に精霊王が今までその場にずっと居たかのような自然さで現れて話しかけ、女と少女が驚愕しながらも咄嗟に臨戦体勢を取るように構えた。



「お、噂をすれば…ってか今の俺じゃ魔力足りなくね?」


『一分だ。話を聞きたくば魔石を』


「はいはい。どのランクがどれくらい?」


『ふむ…主の今の手持ちなら熟練級の魔物の魔石を三つか、上級の魔物の魔石二つ…といったところか』



分身の俺が疑問を尋ねるとやはり時間が無いのか精霊王は人差し指を立てて直ぐに本題に入って要求し、分身の俺の了承しての確認にまるで記憶を呼んでるかのような専門用語を使いながら選択肢を挙げてくる。



「じゃあミノタウロスとグランドタートルの魔石二つね」


『うむ。コレで話し終えるまでは保つはずだ』


「まあ間に合わなければゴブリンの魔石とかで引き伸ばせば良いし。流石に一個で5分は保つでしょ?」


『質による。おおよそ5分前後、といったところだろう。10秒ほど前後するはずだ』



空間魔法の施されたポーチから二種類の結構大きめな魔石を取り出すと即座に粒子状になって消え…



満足気に頷く精霊王に分身の俺が適当な感じで対処法を告げて確認すると精霊王は真面目な感じで返答した。



「ま、その程度の誤差じゃ範囲内よ」


「…ゼルハイト様、この御方が…精霊王、ですか?」


「そうそう。精霊の中の頂点に位置していて、なんかこの世界の形さえも簡単に変える事が出来るんだって」


「…強い。とてつもなく…いや、途方もない…私とじゃ戦いにすら…」


『ほう。たかが人間風情が我ら精霊との力の差を感じとる事が出来るとはな。天晴れだ、褒めて遣わそう』



分身の俺が許容するように言うと少女が緊張した顔で確認するように尋ねるので肯定して軽く説明すると、女は諦観したのか脱力した様子で呟き…精霊王が意外そうに呟いて古風な言い回しで上から褒める。

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