壮年期 49
「んで?結局魔族ってなんなの?」
『人間に分かりやすく伝えるのならば別世界の生命体だ』
「別世界の…」
「生命体?」
分身の俺の問いに精霊王が答えると少女と女が不思議そうに言葉を繋ぐ。
『そうだ。人間の時間で今より3307年前にこの世界と他の世界が一時的に繋がった時がある』
「繋がった?」
『偶然重なったのであろう。様々な要因や条件が。そして繋がった先の世界より魔素の元と、人間が魔族と名付けた生命体がこの世界へと流れ込んで来た』
精霊王が肯定して話を続け、分身の俺が確認するように聞くと解説するように答えた。
「って事はその『魔族』とやらは元々この世界に存在していたわけでは無い?」
『そういう事だ』
「…この世界に溢れている魔素も他の世界からきたものだったなんて…」
『魔族は魔素が無いと生きてはいけぬ。人間が酸素が無ければ生存出来ぬようなもの。しかし当時の人間達からすれば見慣れぬ生命体は脅威そのものだ』
「「「確かに」」」
女の確認に精霊王が肯定し、少女が驚いたように呟くと精霊王は話を続け…その内容に分身の俺らは同時に納得する。
『だが魔族達は魔素の薄いこの世界では力を発揮出来ぬまま当時の人間に敗れ、封印された』
「まあ俺らが酸素の薄いトコで魔物と戦うようなもんか」
「そうだね。空気がなければ弱い魔物相手で数が多ければ負けるかもしれない」
当時の顛末を聞いて分身の俺が自分達の事情に置き換えると女も納得するように肯定した。
『しかし魔族達は封印される直前に契約を交わした』
「契約?」
『そうだ。おそらくは魔族が元居た世界で神と呼ばれるモノ…その存在と、だ』
「神、ねぇ…」
「…契約の内容は、どのようなものなのですか?」
精霊王の発言に分身の俺が尋ねると曖昧な感じで返し、胡散臭く思いながら返すと少女が疑問を尋ねる。
『1000年、封印される事と引き換えに封印が解けた後に人間とこの世界の支配、覇権をかけた聖戦を始める。といった内容だ』
「聖戦…」
「つまり、何回かその聖戦が起きてその度に人類が勝利した…って事だね?」
精霊王が説明すると少女が呟き、女が確認するように聞く。
『そうだ。封印が解けた後の初めての聖戦は魔素がまだこの世界に定着してなく、魔族は魔王城の近くでしか力を発揮することが出来なかったのだ』
「へー。やっぱホームグラウンドである人類が有利か」
『当時はまだ魔法も無く、人間は火薬を使用した兵器を主流として魔族達に対し優位に立っていた。主の言葉を借りるならば銃火器や爆弾といった武器だ』
「マジで!?」
精霊王の話を聞いて分身の俺が意外に思いながら言うと精霊王は更に予想外の補足をしてくるので分身の俺は驚きながら聞き返した。
『戦車、戦闘機、戦艦…長い間人類同士で争い、より先鋭化していく技術力を以て魔族を打倒していた』
「せん…しゃ?」
「せんかん…?」
「…ま、千年も経てばそりゃ技術もそこまで至るわな。でもなんでそんな高水準の文明や文化が廃れて技術とかが失伝したんだ?」
精霊王が俺の前世の記憶からの知識から選んだんであろう用語に少女と女は不思議そうな顔で呟くが分身の俺はスルーして疑問を尋ねる。
『魔族との争いの長期化による物資の不足だ。魔族の侵攻は世界中で起きていた。主の記憶にもあるだろう?戦争が長引けばいずれ武器や弾薬の生産が追いつかなくなり、材料も枯渇していく』
「なるほどねぇ…その聖戦ってのは何年続いたんだ?」
『101年と56日だ』
「百!?百年戦争ってワケかよ!」
精霊王の話を聞いて分身の俺が納得し、確認すると精霊王は正確な期間を教えてくれ…その予想外の返答に分身の俺は驚愕しながら前世の記憶の知識に例えて返す。
『魔族を封印した後、人類は一時期剣や弓などの武器を主流にしていたが300年ほど時が経つと再び火薬の技術を用いた銃火器を使用している』
「…つまり今から…えーと…約二千年前までは現代兵器を使ってた、と」
精霊王は過去の話をツラツラと教えてくれるが分身の俺の疑問への答えではなく、分身の俺はとりあえず先を進めるために我慢して相槌を打つ。
『人類が火薬の技術を使わなくなったのは二度目の聖戦の後だ。魔族が封印される前、二度目の聖戦を見越した魔族達はこの世界に魔素を満たすために魔力の塊であるコアを埋めた』
「…おいおい、ソレって…」
『そうだ、人間の言葉でいうならばダンジョンコアというやつだ』
「…マジかよ…」
精霊王の話を聞いて思い当たる節があるのでダンジョンの成り立ちか?と思いながら聞くとどうやらビンゴだったようだ。
『二度目の聖戦は魔素がこの世界に完全に定着した事により、魔族が人類を脅かした』
「魔王城の一部だけ、って時点でも弾薬の生産が追いつかないレベルならソレより強くなってれば当たり前だな」
『60年続いた聖戦により、人類は火薬の技術から魔素を使用した魔法の技術へと方向転換する事になる』
「なるほど。現代の文明や文化、技術が廃れて失伝した理由がそうくるか」
確かに鉄や火薬とかの武器を生産するよりも空気中の魔素を使う方が遥かに効率的だ…と、精霊王の話を聞いた後に分身の俺は理解して納得しながら頷く。
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