青年期 174

「…しかし出撃拒否とは困りましたね…」


「全くだ。だが、ただの足手纏いなら逆に居ない方が良い」


「…『数は力』とは言いますがソレは最低限の戦力になれば…の話で、戦力にならない人間が戦場に居てもマイナス…デメリットにしかなりませんから」



分身の俺が同情するように呟くとおっさんは同意した後に切り捨てるような事を言うので賛同しながら返す。



「…まあいい。元々期待などしていなかったのだ、後ろから味方を斬るような行為をしなかっただけマシというものよ」


「さっさと戦場から撤退して周りの兵達の邪魔をしなかったのは不幸中の幸いだった、と考えて切り替えるしかありません」


「ふん。マイナスはマイナスであっても実害が出ないだけ御の字という事か」



おっさんのボロクソな物言いに分身の俺も乗っかるとおっさんは気持ちに余裕が出てきたのか、切り替えるように言って椅子の背にもたれかかる。



「…食料の事を考えるならば、もはや戦場に出ない彼らは早々にガウ領に追い返…帰還させた方がよろしいかと」


「うむ、そうだな。悪いが頼まれてくれんか?」


「分かりました」



分身の俺が少し考えて進言するとおっさんは受け入れた後に確認してくるので、分身の俺は了承してガウ領から来た奴らの所へと出向く事にした。




「やー、みんな元気?」


「ん?誰だあんた?」


「誰かの知り合いか?」


「…でもどっかで見た事あるような…」



…町の外の宿営地に入って分身の俺がが手を上げながら挨拶するとガウ領の領民達はみんな不思議そうな反応をする。



「…あー!もしかして領主…じゃない、前領主じゃないか!?」


「ああ!そういえば王都で何回か見た事ある…!」


「前領主って…確か、あのゼルハイト家の?」



…人がゾロゾロと集まって来るとその中の何人かが分身の俺を指さして思い出すように声を上げ、他のみんなが驚いたように確認した。



「みんな無理やり集められた挙句にこんな所に連れて来られて大変だったね。侯爵の許可は取ったからガウ領に帰っていいよ、お疲れさん」


「ホントか!」


「帰っていいのか!?」


「やっと帰れる!」



分身の俺の指示にみんなは驚いたように喜び出す。



「後は俺らが上手くやっとくから、また呼び出される前にさっさと片付けて帰った方が良いよ」


「そうだな!」


「さっさと片付けてさっさと帰ろう!モタモタしてたらまた何が起こるか分からない」


「「「おおー!!」」」



分身の俺が催促するように言うとみんなは一致団結したように兵達の指示の下、急いで宿営地の撤去作業を開始する。



「…ふーん…使えない事は無さそうだが…」



…みんなの撤去作業の様子を観察していると意外にも領民や兵達の手際が良く…



作業をこなす上での兵と領民でちゃんとした連携が取れているので、この状態ならば戦力として最低限どころか及第点ぐらいでカウント出来そうなくらいだ。



「…問題はモチベーションか…」



おそらくこの集団の問題点は率いる者の不在…そして未経験から来る士気の低さゆえのやる気の無さだろうな…と、察して分身の俺はおっさんに報告に行く事にした。



「…入れ」


「失礼します」



おっさんの家に戻って部屋のドアをノックすると入室の許可が降り、分身の俺は挨拶しながら部屋の中へと入る。



「…どうだ?」


「すぐさま撤退するようです。今は宿営地の撤去作業にあたっています」


「そうか」


「それと…」



おっさんの書類作業をしながら確認に分身の俺が報告すると手を止めずに返し、分身の俺は報告を追加して話す事に。





「…なるほど。そういう事だったか」


「自分が率いるか、多少の訓練時間を設けて猟兵隊に指揮させる事が出来れば予備戦力としては十分に有用になっていたかと」


「…そうか。しかしガウの領主はもう貴殿では無い。本来ならウィロー伯爵がやるべき事をゼルハイト卿がそこまでして手助けする必要もなかろう」



分身の俺の話を聞いて納得したように呟いたおっさんに打開策を告げるもおっさんは拒否するように返した。



「…ですね」


「…ふう…こうなったらしょうがあるまい。少し早いがゼルハイト卿、協力してくれ」


「かしこまりました。一応正式に援軍要請の方をお願いしてよろしいですか?建前上、自分達は訓練として移動していますので」


「分かった。頼んだぞ」


「はい」



分身の俺が肯定するとおっさんはため息を吐いて援軍を要請するので、分身の俺はちゃんとした手続きをお願いして部屋から出る。



「…おっと」



分身の俺は宿屋に戻る前に念のためちゃんと帰還の準備が進んでるかを確認するために宿営地へと向かった。



「…お。みんな手が早いねぇ」


「…なあ、本当に俺達は戻っていいんだよな?」


「ちゃんと許可は出てるんだろ?」


「後で領主に怒られたりしないか?」



どんどんと撤去作業が進んでるのを見て分身の俺が褒めると兵や領民達が不安そうに確認してくる。



「一応侯爵は伯爵に手紙を送るらしいから戻っても大丈夫だけど…戦場で成果を残してないだけに怒られる可能性は否定出来ない」


「…そ、そうか…でも俺達が戦場に行ったところで…なあ?」


「あ、ああ…周りの兵達の邪魔になるだけだしなあ?」


「…俺、死にたくねぇよ」


「俺も」


「今の領主は税は上げるし、ろくに戦えない俺らを強制的に集めて戦場に放り込もうとするし…俺たちを殺そうとしてるとしか思えない」


「しかも自分は税を横領しようとしてるって噂だ!そんな領主についていっていいのか?」



分身の俺の適当な感じでの返答にみんなは愚痴るように不安そうに不満を言い始めるが…



俺には全く関係の無い事なので放置して宿屋へと戻った。

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