青年期 173

…それから一週間後。



侯爵から来た手紙には『ガウ領から兵2000の援軍を取り付けた』という内容が書かれていた。



「くくく…頑張ったなぁ…2000て」


「どうかしました?」


「コレ。ウィロー伯爵はやっぱりプライドが高いようだ。良い意味でも悪い意味でも」



俺が笑いながら呟くとお姉さんが本から目を離して尋ね、俺は手紙を渡しながら馬鹿にしたように言う。



「…2000人もよく集められましたね。1/3ぐらいしか残ってなかったはずなのに…」


「領内の兵を全て回したか、賦役で無理やり集めたか…」


「…もし賦役だったら戦力としては全く期待出来ないのでは?」



お姉さんの驚きながらの意外そうな呟きに俺が予想して返すとお姉さんは微妙な顔で確認してくる。



「『援軍を出した』っていう名目が重要なんであって、結果なんて二の次って事でしょ。ま、侯爵もただの嫌がらせのつもりだろうから期待なんてしてないと思うよ」


「…政治的な権力争いって怖いですね…」


「全くだ。まあでも家族は俺が全力で守るから安心してよ」



その気になれば売国奴になってでもどうにかするから。と、俺はお姉さんを安心させるように身の安全を告げた。



「心配なんてしてないですよ。坊ちゃん強いですもん」


「最悪私兵団を解散して傭兵団に戻るかも…一応匿ってくれる国はドードルやロムニアがあるし、保険として魔法協会に頼んで『魔石の値段を一割引き』の条件を提示すると手引きしてくれるだろうからね」


「値引きなんてしなくても協力してくれると思いますが…『値引き』を交渉材料に入れると亡命先の待遇や条件は格段に良くなると思います」



お姉さんの笑いながらの返事に俺が最悪の事態を想定して対策を話すとやっぱりお姉さんは笑いながら返す。




…その三日後。




侯爵からの報告書のような手紙が送られてくる。



…どうやら今回はソバルツが本腰を入れてるらしく戦場の状況が思わしくないようだ。



なので俺はまだ侯爵から援軍要請は来てないが面倒な状況になる前に先に動いておく事に。




ーーーー




「…『切り上げ強化』って便利ですね。まさか私があの魔導具を使う事になるなんて…」



…分身の俺らがドラゴンに変化して一足先に侯爵の居る町へと到着すると…



分身のお姉さんは今まで使う事の無かった強化魔法と、ソレが使えるようになる魔導具を実際に体験しての感想を告げた。



「全くだ。俺は余程の事態にでもならない限りお世話になる事が無いと思うけど」


「私で1/4ですから坊ちゃんだと……1/16ですか?そんな事態になれば国の危機ですよ」



町に入りながら分身の俺が同意し、いつか俺も使う日が来るかも…と思いながら返すと分身のお姉さんは若干困ったように笑う。



「さて…一応侯爵から色々と情報は貰ってるけど…とりあえずみんなが来るまでは暇だし情報収集でもしとこうか」


「分かりました」



分身の俺は待機してる間に観光…じゃなくて細かい情報を集めるために分身のお姉さんと共に宿を確保してから町を回る事に。




…翌日。




「…ん?」



分身の俺らが朝食を食べていると部屋のドアがノックされる。



「はいはーい」


「…ローズナー男爵、だな?」


「ええ、そうですが…」



返事をしながらドアを開けると騎士が分身の俺の素性を確認するように尋ね、分身の俺は肯定した。



「コンテスティ様がお呼びだ。都合のつく時間を教えて欲しい」


「特にこれといった用事は無いのでいつでも問題はありませんが…」


「…そうか。では今からご同行願おう」


「分かりました。…ちょっと行ってくる」


「はい。行ってらっしゃい」



…どうやら俺が来てる事が早速バレたらしく呼び出しをくらってしまい、分身の俺は分身のお姉さんに一声かけてから騎士について行く。



そのまま騎士について行って家に着くと敷地内で案内役が執事に変わり、おっさんの居る部屋まで通される。



「…ゼルハイト卿、来ていたのか」


「はい。猟兵隊は後から遅れて来ます」



おっさんが相も変わらず書類仕事しながら険しい顔で尋ねるので分身の俺は肯定して補足するように告げた。



「…援軍要請はまだ出していないはずだが?」


「勝手に来ました。ガウの兵士達も気になりますし」


「そうか。…ガウから来た兵、アレは使い物にならん」



おっさんの睨むような顔での問いに分身の俺がおどけるように軽い雰囲気で返したら安心したような…柔らかい表情になって呟き、直ぐに苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てるように言う。



「と言う事は…やはり賦役で集めた兵でしたか」


「烏合の集よりも酷い有様だ。昨日、戦場の右翼後方の遊撃を任せたらしいが開始一時間ほどで勝手に町へと逃げ帰ったそうだ」


「え」


「今日は先程の報告で出撃を拒否してると…兵としての自覚が無さすぎてどうしたものか…」



分身の俺が予想して呟くとおっさんはため息を吐いて愚痴るように兵士達の有り得ない行動を話し…



嘘だろ…と信じられずに返すとおっさんが更にヤバイ事実を話してくる。



「…ウィロー伯爵には?」


「もちろん今から手紙を送る。あやつが送って来たのは『兵』ではなくただの『人』だ」



分身の俺の確認におっさんは苦情の手紙を送るらしくまたしてもため息を吐いた。

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