青年期 172
…そんなこんな一月後。
どうやらまたしても南の国境にソバルツが攻め込んできたようだ。
侯爵から来た手紙には『ウィロー伯爵へガウ領の兵を援軍として派兵要請するのでしばらく様子見をして欲しい』的な事が書かれていたが…
正直なところガウ領は東の国境に近いから要請を断られるのでは?と思うけども侯爵ならそこらへんも上手くやるんだろう。
「…ああ…そうか…うーん…」
俺は猟兵隊に戦いの準備をさせようと立ち上がって直ぐにお姉さんと女性が子育てで離脱する事を思い出して呟く。
「…隊長クラスが二人抜けるのは痛いが…まあいいか」
流石にあの二人には戦いよりも子育てを優先させたいので、しょうがない…と切り替える事に。
「ん?」
「あ」
俺が自室から出て歩いていると階段を降りようとしたところで赤ちゃんを抱いたお姉さんが登ってきた。
「どうかした?ただの散歩?」
「あ、いえ…ローズナー領の家に行く前にお願いがありまして…」
「お願い?珍しい」
俺の問いにお姉さんが用件を言うので俺は自室に戻りながら返す。
「…で、お願いってのは?」
「私に『分身』をお願いできないですか?子育てで離れるとなるとダンジョンについて行けなくなりますし…ほら、そうなると魔石が貰えないじゃないですか?」
俺が自室に入ってドアを閉めながら尋ねるとお姉さんはお願いの内容と理由を話し始める。
「…俺は構わないけど…知っての通り分身中は常に魔力が半減してる状態だけど大丈夫?」
「もしどちらかで不測の事態が起きたとしても 半分あれば十分に対応可能です」
流石に今回はダンジョンに行く時とは話が違うので…
長期間になる事を警告するように確認するも、お姉さんは既に色んな状況を想定しているかのように肯定した。
「そう?まあ本人が良いって言うんなら良いけど」
「ありがとうございます。あ、あとヘレネーにも分身をかけられます?彼女も『子育てはしたいけど猟兵隊からは離れたくない』と思ってるそうなので…」
「ホント?」
「はい。何度か私とそのような愚痴で盛り上が…いえ、話し合ったので間違いないと思います」
俺はラッキーと思いながら返すとお姉さんが意外な提案をしてきて、真偽を確かめるように聞くと頷いて肯定する。
「…俺はありがたいけど…そうなると極技の事を話さないといけないからなぁ…」
「彼女なら秘密は墓まで持っていきそうですけどね」
「…ま、本人に秘密を守る事を同意するか聞いてからだな。分身をかけるかどうかは」
「では早速行きましょうか」
「ん」
俺の呟きにお姉さんは女性を信頼して信用してるかのように言い、俺はとりあえず前提条件をクリア出来るかどうかを確かめるために女性の居る部屋へと向かった。
…その後、女性の部屋で確認を取るとお姉さんが太鼓判を押した通り真剣で真面目な顔で『死ぬまで秘密を守る事』を誓ってくれ…
俺が変化魔法の極技である『分身』について話すと弟や妹、お姉さんや老師達に教えた時と同じく驚愕しっぱなしだった。
…そして翌朝。
「んじゃ、行って来るわ」
「おう。頼んだ」
「行って来るね。そっちは任せたから」
「うん。子育てお願いね」
「…なんか自分で自分を見送るなんて変な気分だね…」
「あたしもだよ…まあとにかく子育てはしっかりやっておくから任せな。そっちも任せたよ」
「ああ!たまに様子を見に行くから強い子に育てておくれ!」
まだ日が昇る前の暗い時間に分身の俺がお姉さんや女性の分身達と赤ちゃんを送迎するために一旦拠点の外に出て、それぞれの分身と別れの挨拶をしてローズナー領に飛び立つのを見送る。
「…いやー、二人とも残ってくれて助かったよ。ありがとう」
「いえいえ。坊ちゃ…旦那様を支えるのが私達の役目ですから」
「…にしてもこんな事が実現出来るなんて…とても現実とは思えないよ。ちょっと私に都合良すぎて、もしかして夢だったり…?」
拠点の中に戻って俺がお礼を言うとお姉さんはあえて言い直して笑い、女性は現実感が湧かないのか自分の頬を引っ張り始めた。
「…痛い。やっぱり現実だ…」
「あはは!分かる分かる。坊ちゃんは子供の頃から凄かったから私も何回その感覚に陥った事か…」
「もう流石に慣れたんじゃない?」
「結婚を申し込まれた時にも同じ気持ちになったので全然慣れないです」
女性が痛みを口にして頬をさするとお姉さんは笑いながら同意し、俺の弄るような確認に最近の事例を話して否定する。
「あと…多分後からまた同じ感覚を味わう事になると思う」
「ええ、まだ何かあるのかい?」
「今変化したドラゴンに乗ってるヘレネーの影武者が今まさに体験中。坊ちゃん、あっちで記憶共有って出来ます?」
お姉さんの意地悪するかのような笑みからの発言に女性が困惑したように聞くと、お姉さんは先にネタバレして俺に確認してきた。
「出来る出来る。更に半分の影武者を増やして直ぐに減らすだけだし」
「あ、じゃあお願いしていいですか?」
「オッケー」
俺が肯定するとお姉さんが軽い感じでお願いしてくるので俺も軽い感じで了承し、周りに人が居ないのを確認してから変化魔法を使い…分身した後に即消して移動中の俺と記憶を共有させる。
「…『極技』って言ってたのにそんな小技みたいに簡単に出来るもんなんだ…」
「ふふふ…これぞ日々の研鑽のたまものだよ」
するとお姉さんは微妙な顔で呟き、俺は笑って理由を話す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます