青年期 319

…その約30分後。



「団長!王都から急報が!」


「…マジ?」


「クライン辺境伯様!何を血迷ったのかグィン伯爵が兵を率いて城に攻め入りました!どうか陛下達を助け出すため、お力をお貸し頂きたい!」



団員が慌てた様子で部屋に入って来たので俺がさっきのやつか…?と思いながら聞くと騎士の格好をした女が入って来て助けを求めて来る。



「…はあぁぁ…マジなやつかよ…直ぐに準備して行くから入口で待っといて」


「感謝申し上げます!」



俺は深くため息を吐いた後に呟いて指示を出すと騎士の女はポーズを取りながらお礼を言い、団員と一緒に部屋から出て行く。



「ったく…せめて今のタイミングじゃなくて何も無い時にやれよ…」


「全くだな」



俺がもう一度ため息を吐いて変化魔法を使い、分身して呟くと分身の俺も深く同意して頷いた。



そして分身の俺が騎士の用意していた馬に乗って一緒に王都の城に向かうと…



どうやら既に城は伯爵に制圧されてしまったのか、兵士達が城門の前で防衛するかのように布陣している。



「うへー…もう終わり?中央騎士団は何をしてんだ?」


「…本隊は王都を離れて任務にあたっています。王都に居た騎士団員は私を含めた極少数だけでした」


「…なるほどね。絶好の機会だったわけだ」



分身の俺の疑問に騎士が答え、分身の俺は納得しながら返す。



「なんだ貴様は!?」


「ちょっと伯爵と話がしたいんだけど」



分身の俺が一人で城に近づくと兵の一人が声を上げ、周りの兵達が武器を構えて警戒する様子を見せるので…



分身の俺は刺激しないよう両手を上げて丸腰で抵抗の意思が無い事を示しながら要求した。



「なんだと…?」


「この通り丸腰なんだから良いじゃん。俺がその気になってもあんたらなら直ぐに捕らえられるでしょ」


「…どうする?」


「伯爵様は誰も入れるなと言っていたが…」


「連れて行くか?」



分身の俺が兵をおだてるように言うと兵達は対応を話し始める。



「貴様、身分はなんだ?ただの庶民なら会わせられんぞ」


「マジ?まあ一応これでも子爵家の長男だからセーフか。伯爵側に付くかどうかの判断を決めるために考えを聞きたくてね」


「…連れて行くか?」


「そうだな。一応連れて行って後は伯爵様の判断次第だ」


「…よし、ついて来い」



兵の問いに分身の俺は嘘ではないけど…的なギリギリの身分を伝えた後に適当な嘘を吐くと、兵士達は判断に困ったような反応をするもとりあえず伯爵の下に連れて行ってくれるらしい。



「…馬鹿な事を考えるんじゃないぞ。城の中はもはや伯爵様の兵でいっぱいだからな」


「はいはい」



5人ほどの兵が分身の俺を囲んで城の中へと入ると兵の一人が脅しをかけ、分身の俺は適当に相槌を打つ。



「…ん?なんだそいつは?」


「子爵家の子息らしいです。伯爵様に会わせろと言われまして…」



…城の中を歩いていると防具の質が違う兵が巡回するように警戒した様子で歩いており、分身の俺を見て尋ねると分身の俺の周りにいた兵士達の一人が報告するように答える。



「ふん?そうか。ではここから先は俺が連れて行こう」


「ありがとうございます」



…兵士の階級や実力によって担当するエリア的な意識があるのか、兵が案内を引き継ぐように言うと分身の俺の周りにいた兵達は安心したような顔になって城門へと戻って行く。



「こっちだ。下手な動きを見せようもんなら斬るぞ」


「はいはい」



兵は先導するように歩き出すと脅しをかけてくるが分身の俺は適当な感じで流すように返した。



…城の中を進んでいると巡回や警備にあたっている兵が何故か分身の俺の後をついて来て、いつの間にかさっきのように5人の兵が周りを囲むように後をついて来る。



「伯爵様!伯爵様に面会を求めてる者を連れて参りました!」


「武器や防具どころか物すら何一つ所持しておらず、完全に丸腰の非武装でございます!」



玉座の間がある階に着くと廊下には兵が溢れており、必死にドアを破ろうとしている最中に案内した兵が敬礼のポーズを取りながら報告した。



「面会だと?…誰だ?」



…青年…というよりも壮年?の男は怪訝そうな顔をした後に確認するように尋ねる。



「子爵家の子息だと申してるようです!」


「子爵家だと…?…お前か」


「お初お目にかかります。自分はゼルハイト子爵の長男であります『リデック・ゼルハイト』と申します」


「ゼルハイト家の長男…?ゼルハイト家の後継ぎは次男のはずだが…それに長男といえば……っ!?クライン、辺境伯…!!?」



兵の報告を聞いて分身の俺に近づいて来た壮年の男に適当な感じで挨拶して自己紹介をすると、壮年の男は不思議そうに呟いた後に情報を思い出したように分身の俺を見ながら驚愕する。



「この馬鹿共が!クライン辺境伯といえば『戦闘狂』と言われている武闘派だぞ!なぜこんな所まで連れて来た!」


「クライン辺境伯…!?」


「あの猟兵隊を束ねる団長の…!?」



壮年の男は兵達を罵倒するように叱責しながら後ろに下がって兵士達の群れに紛れていく。



「とりあえず騒ぎを収めて欲しい。もし俺との一騎打ちに勝てる、って自信がある奴が居るなら受けて立つよ」


「…丸腰で非武装なら…みんなでかかればいけるんじゃないか?」


「待て。噂では防具も着けず武器も持たずに単身敵陣に突っ込んで無傷で帰って来るらしいぞ」


「…噂はあくまで噂じゃないのか?見ろ。ああして立ってるとそこらに居るただの一般人と見分けが付かないぞ」



分身の俺がそう告げると兵士達は対応に困ったように動かず、分身の俺を見ながら話し合う。

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