青年期 320
「…あ。もし人質とか取ってるんなら解放してくれない?盾にしようものなら殺さないと事態が収まらなくなるし」
「人質だと?」
「そうか!確か捕らえた者の中にゼルハイト家の当主も居たはずだ」
「…はぁ…死にたくなければ、命が惜しければ今直ぐにこの場から逃げた方が良いよ?そんな手段を取られたらいくら平和主義の俺でも皆殺しにしないといけなくなるからね」
分身の俺のふと思いついての要求に兵が不思議そうな顔をすると壮年の男が思い出したように言うので、分身の俺はため息を吐いて真剣な顔でこの場に居る全員に脅しをかけた。
「み、皆殺し…!」
「ああ、心配しないで。他の人を巻き込むとか卑怯で卑劣な手段を取らずに今の状況のままなら俺から手を出す事は無いし、伯爵や兵は殺さないと約束するから」
兵達やその場の空気や雰囲気が一気に張り詰め…
分身の俺はソレを変えるように楽観的で適当な感じで飴と鞭のように、現状維持なら誰にも危害を加えない事を告げる。
「ほ、本当か?」
「ん。とりあえず伯爵、今ならまだ間に合うから兵を退かせて欲しい。その後の身の安全は俺が保証して守るから話し合いで解決させない?」
「馬鹿な!そんな甘言を信じるわけが…!」
一人の兵の確認に分身の俺が肯定して要求と提案をすると壮年の男は直ぐに却下した。
「じゃあ今そこに陛下が居るんなら俺が交渉してあげようか?今大人しく兵を退く条件として兵達や伯爵の身の安全を保証し、今回の件の罰則についてはお互いに話し合って落とし所を決める…って」
流石に俺が間に挟まればアッチも約束を守らざるを得なくなるだろうし…と、分身の俺は今回の件を丸く収めるために仲介を申し出る。
「くっ…!」
「…伯爵様、辺境伯の提案を呑んだ方が…」
「陛下達を捕らえてもその先は…」
「…ここはクライン辺境伯に頼るのも手だと思われますが…」
壮年の男が考えるように困惑した様子を見せると兵士達は分身の俺の提案に賛同したのか、説得するような感じで言う。
「しかし…もう遅い!ここで負けを認めてしまっては反逆罪として死刑を待つだけになる!」
「いやいやまだ間に合いますって。ココに来るまでの道中周りを見てましたけど、まだ死者は出てませんよね?重傷者も今からヒーラーに診せれば治るので交渉の余地は余裕で残ってますよ」
「…くっ…!分かった。陛下が私と兵達の身の安全を保証するというのならば兵は退かせよう」
覚悟を決めてるかのような壮年の男に分身の俺がツッコミを入れるように否定して返すと、壮年の男は少し考えて条件を提示して分身の俺の提案を受け入れる。
「…だそうです。陛下、どうでしょう?」
分身の俺はドアをノックした後にバキッとドアを無理やり壊して開けながら今までの話が聞こえていた前提で王様に判断を尋ねた。
「…仕方あるまい。この状況下では受け入れる以外の選択肢は無いに等しいのだからな」
「賢明な判断に感謝いたします陛下。では早急に話し合いの場を設けなければ」
「…グィン伯爵、今聞いた通りだ。身の安全は保証するゆえ、早急に城から兵を退かせてくれ」
王様が渋々受け入れ、分身の俺が軽く頭を下げてお礼を言って次の予定を告げると王様は部屋から出て壮年の男に指示を出す。
「…撤退だ」
「「「はっ!」」」
壮年の男は王様を睨みながら反発するような表情をするも指示を出すと兵士達は了承の返事をして直ぐに移動を開始する。
「王都全域にグィン伯爵の兵や関係者に決して危害を加えてはならぬという通達を。そして直ぐにヒーラーを集めて負傷者の治療にあたれ」
「「「はっ!かしこまりました陛下!」」」
王様が命令を下すと側近の人達も胸に手を当てて軽く頭を下げながら返事をし、急いで部屋から出て行く。
「グィン伯爵、会談の場所は会議室で良いな?」
「分かりました」
「今回の件は騒ぎが大き過ぎた…他の者にも納得させる必要があるゆえ、数人同席させるがよろしいな?」
「会談の場では暴力禁止でお願いします。何かあれば例え陛下と言えど伯爵との約束上、自分が取り押さえないといけなくなるので…」
王様の提案に壮年の男が了承すると王様はちゃんと理由を説明して確認し、分身の俺は割り込むように嫌々ながらも釘を刺す。
「分かっておる。兵は中にも外にも待機させん。会談は30分後だ」
「…では先に会議室でお待ちしましょうか」
「…うむ」
王様は了承するように返すと開始時間を設定してどこかに歩いて行くので分身の俺は壮年の男と先に行って待つ事にした。
「…噂とは随分と違うな」
「…え?」
「クライン辺境伯といえば戦う事をなにより好み、生き甲斐とした『戦闘狂』『蛮族の末裔』『野蛮人』と聞いていたのだが…」
廊下を歩きながら壮年の男がボソッと呟き、分身の俺が聞き返すと壮年の男は俺の世間での噂話を基にしたイメージを話す。
「あー…まあ『聞いていたイメージと違う』とは良く言われます。一応戦うのはまあ好きですが…これでも平和主義者のつもりなんですけどね」
「ふ…ははは!この時代に『平和』を『主義』とするか!」
分身の俺の冗談をいうようなおどけた返答に壮年の男は声を上げて笑う。
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