青年期 218

「…ぅ…はっ!」



…まさかの分身の女性は気絶して10秒も経たないぐらいの短時間で目を覚まし、勢いよく上半身を起こす。



「覚醒早くない?まあそれはさておき…いやー、残念だったね」



分身の俺は驚いて意外に思いながら呟きつつも一応慰めるような言葉をかけた。



「…流石にあんたの師匠だけあってとんでもない強さだ。例えあたしが全力だったとしても結果は変わらなかっただろうね…」


「…手を抜いていたと?」


「まさか。本気だったさ、今出せる力の限り全力を出して本気で戦ったよ。殺しても仕方ないと思うぐらいに」



分身の女性が立ち上がりながら男を褒めると男は勘違いしながら言い訳を指摘するような感じで聞くが、分身の女性は否定する。



「まあ今の師匠は多分柔術の極みに限りなく近いだろうから負けるのもしょうがない。俺からしたらもう極めてるといっても過言では無いと思うけど」


「私もそう思います。あのヘレネーでさえ手も足も出ないほどの技術力ですし」


「…それでもあんたなら勝てるんだろう?」


「そりゃいくら師匠といえども俺みたいな耐久型とは相性が最悪だからね。それでもなお、楽には勝てないんだけど」



分身の俺のフォローに分身のお姉さんも賛同すると分身の女性が納得いかなそうに尋ね、分身の俺は肯定して理由を告げた。



「…リデック君には既に手の内を知られてしまっているからな…技術力の差によるアドバンテージは少ないだろう」


「じゃああんた達が手合わせしたら結局はこの旦那様が勝つのかい?」


「「…最終的には」」



男が不利を察するように呟くと分身の女性が確認するように尋ね…分身の俺と男の少し考えての言葉が被る。



「…やっぱりあんた強いんだね」


「さっきも言った通り相性だよ。多分ロムニアのあの凄腕の魔法使いには師匠でも勝てないだろうし」


「…確かに魔法使い相手には分が悪いな…先手を取れないと勝ち目は無い」



分身のお姉さんの言葉に分身の俺がそう告げると男は誰の事を指しているか分からないだろうに、賛同してくれた。



「それでも多分正面からの正々堂々の勝負では上澄み以外では師匠に勝てないでしょうね。乱戦だと…まあ」



分身の俺は男を評価するように前提条件ありきの話をした後になんでもありの状況を想定して言葉を濁す。



「でも護身術としては是非とも欲しい技術ですよ。強化魔法以外の魔法の使い手って基本的に近づかれたらかなり不利ですし」


「その認識もどうかな?学校に通ってる通ってないでだいぶ違ってくるけど…」



分身のお姉さんがフォローするように返すが、分身の俺は少しツッコミを入れるように指摘する。



そして翌日。



「では行って来ます」


「頑張って下さい」


「…ココは任せろ」



分身の俺の挨拶に分身のお姉さんとその護衛として残る男が挨拶を返す。



「さーて、そろそろ国にお帰りいただくか」


「そうだね」



分身の俺は余裕の態度で敵を追い返す発言をすると分身の女性が笑って賛同した。



「まあしかしこの国に来て良かったな。師匠とも再会出来たし、アルラウネやドリアードとかいう珍しい植物系の魔物も見れたし…」


「植物系の魔物?」



分身の俺が兵士達の下へと向かって歩きながら上機嫌で言うと分身の女性は不思議そうに聞くので…



「そうそう。『アルラウネ』がこんなんで、『ドリアード』がこんな感じ」


「…へー!そんな魔物もいたんだ!それならあたしも行けば良かった…!」



モノマネでもするように変化魔法を使い、変身して見せて解除すると分身の女性は意外そうに返し…悔やむそうな反応をする。



「どっちもサポート系統の魔物っぽかった。セイレーンとかみたいに」


「へー…ソレはまた、特に珍しいタイプの魔物だったみたいだね」


「でもまあセイレーンほどでは無いかな。いや、そもそも差がありすぎてセイレーンと比べるのが酷か」



分身の俺の説明に分身の女性がまたしても意外そうに言い、分身の俺は他の魔物と比べて直ぐに前言撤回した。



「…よーし、さっさと終わらせに行くぞー!」


「「「「おおー!!」」」」



…陣営の外に出ると分身の俺の指揮下の兵達が既に揃っていたので分身の俺は馬に乗り、号令をかけて戦場へと向かう。






ーーーーー






「やーやー!我こそはラスタの猟兵隊を率いる団長なり!敵大将へと一騎打ちを申し入れる!こちらが勝てば撤退せよ!そちらが勝てば我々の部隊は撤退しよう!」



戦場に着くと分身の俺はいつも通り単騎で敵陣に近づいて名乗りを上げて一騎打ちを挑み、勝敗時の条件を宣言する。



「アイツは…!」

「昨日は姿を見なかったと聞くが…」

「ど、どうするんだ…?」



敵の軍勢はザワザワと騒がしくなるが少し待っても返事は無く、矢が飛んで来たり兵士達が突撃して来たりとかの攻撃も無い。



「返事はいかに!」



分身の俺が催促するように問うがやっぱり返事は無いので味方を待機させている場所まで戻る事に。



「はぁ…ま、しょうがないか…よし、みんな!俺に続け!行くぞ!突撃だー!」


「「「「おおー!!」」」」



分身の俺はため息を吐いた後に気を取り直して指揮下の兵達に号令を出して真っ先に敵陣へと切り込んだ。

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