青年期 219

「…来るぞ!守りを固めろ!」


「ははは、ちょっと遅かったね」



敵の指揮官の一人が兵達に指示を出すが分身の俺は他の歩兵達と歩調を合わせるために笑って馬から飛び降り、敵兵達と交戦した。



「…退けー!退けー!」


「作戦通りいくぞ!」


「返り討ちにしてやれ!」


「…お?」



そして後ろから指揮下の兵達がやって来ると…敵兵達は中央の奴らが後ろに下がり、分身の俺らをあえて突出させて左右の奴らで包囲するように動き出す。



「ほう?包囲の陣、ハンニバル…だっけ?上手いものだ」



分身の俺は敵の鮮やかな動きでの対策に感心するも、ただし相手が俺らだけの場合は、な…と付け足すように呟く。



すると敵陣の右側の後方から分身の女性が攻めかかり、相手は逆に一部が包囲されたような形になる。



「ははは。なんのために部隊を分けたと思ってるんだか…ま、それを敵が知りようもないか…進めー!敵は我らの突撃に恐れをなして引いている!このまま決めるぞ!」


「「「「おおー!!」」」」



分身の俺が笑って呟いた後に指揮下の兵達の士気を上げるかのように号令をかけて無理やり敵陣を押し込んでいく。



「…!なんて勢いだ…!」


「一旦下がるぞ!退けー!」


「よし!進路変更!浮いた左側を取るぞ!左に進路変更!」



中央の下がってた奴らが更に下がるので分身の俺はチャンス!と、孤立した軍勢を落とすために目標を変えて指揮下の兵達に号令を出す。



「なっ…!」


「くっ…!」


「退くぞ!」



…流石に数も勢いにも差がありすぎるので引き気味に応戦したかと思えば直ぐに逃げ出した。



「…よし!一旦帰還する!」



追うのは他の人達に任せ、分身の俺は指揮下の兵達に宿営地へと戻るよう指示を出す。



「あたしらは追撃するよ!後に続け!」



分身の俺らが足を止めると分身の女性は指揮下の騎馬部隊に号令を出して下がっていく敵軍を追いかける。





ーーーーー





「…ん?もう戻って来たのか!?」


「敵が逃げて行ったので、負傷者の治療を優先させました」


「…まだ半日も経っていないぞ…?」



宿営地に戻ると歩いていた男が分身の俺を見て驚き、早く戻って来た理由を話すも驚いたまま呟く。



「自分が戦場に行くと大体こんな感じですよ。睨み合いや探り合いなんて面倒なので、短期決戦を狙って敵陣に突っ込みますし」


「…なるほど。それで負傷者の数が多いから治療を優先しているわけか…」



分身の俺が軽い感じで話すと男は納得したような様子を見せた。



…その夕方。



戦場で引いた敵軍を攻めたてていた分身の女性や味方の兵達がみんな帰還して来る。



「どうだった?」


「あと一押しだね。敵の士気は目に見えて低下しているから、明日には国境まで追い返せると思うよ」



分身の俺の問いに分身の女性は戦況を報告してくれた。



「んじゃ上手く行けば明日で終わるかもね」


「そうなると良いんだけど」


「…貴殿が、ラスタから来た指揮官殿か?」



分身の俺が笑いながら予想を話すと分身の女性も笑って返し…急に騎士のような男の人が話しかけてくる。



「あ、うん」


「此度の力添え、誠に感謝申し上げます。我々だけでは悔しいが、敵の勢いに押されて防衛線を維持する事すら困難でした」


「はあ…」


「しかし貴殿の働きのおかげで敵を国境付近まで追い返す事が出来た…それも数日という短時間の内に」



男の人は感謝の言葉を述べるためにペラペラと喋るが分身の俺は反応に困りながら返す。



「敵を我が国から追い返すまでもう一押し…何卒最後までお力をお貸しください」


「まあ…そのために来てるので頑張ります」


「…あんた…司令官の下にいた…その腕はどうしたんだい?」



男の人がお願いしながら頭を下げるので分身の俺が適当な感じで返すと分身の女性は男の人を見ながら思い出すように呟き、何かに気づいたように尋ねる。



「…先ほどの戦場で少々…」


「こんなところで話してるより治療が先だろ?なんで先にココに?」



男の人は右肘のちょい上ぐらいに包帯を巻いていて今さっき怪我して欠損したらしく、分身の女性はキツイ口調で治療に行くよう促した。



「…命に関わるような怪我ではございませんので…それにヒーラーの人数が少なく、重傷者や重体の者の治療を優先させる必要があります」


「それは…」


「先生も俺らの指揮下の兵を治すので魔力がギリギリみたいだしねぇ…」



男の人の困ったように笑いながらの理由を聞いて分身の女性は何も言えなくなり、分身の俺は分身のお姉さんも平均並みの魔力しかない今の状態じゃどうしようもない事を教えるように呟く。



「…まあでも…この人強い?」


「個人的な戦闘能力は分からないけど…見てる分には指揮力は高いし、現場や周りを良く見てて視野も広い。あんたもあたしも毎回助けられてるよ」


「いえいえ、そんな…買い被り過ぎですよ。私は当たり前の事をしているだけで…」



分身の俺が戦場で必要かどうかを尋ねると分身の女性は周りの指揮官達の仕事振りをちゃんと観察していたらしく、男の人を評価するように言って男の人が謙遜するように返す。



「なるほど…じゃあその腕は俺が治そうか?といっても治療や回復魔法はあんまり得意じゃないんだけど」



分身の俺は理解して呟いた後に提案して予防線を張るように期待値を下げるような言い方をする。



「…良いんですか?止血だけでもありがたいので、是非お願いします」


「ごめん、他にも治療が必要な指揮官がいないか探して来てくれない?戦線復帰させたら俺らが楽になりそうだし」


「分かった。ちょっと探してくる」



男の人が意外そうに確認して受け入れるので、分身の俺は分身の女性にそうお願いして救護テントへと向かった。

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