青年期 30
「…どうだった?」
「報酬増やしてくれるって。やっぱ前の侯爵の例を挙げたのが良かったみたい」
「そうか!それはよかった!」
「ふふふ…どれだけ貰えるか楽しみだな…!」
知り合いのハンターの問いに俺が報告するとみんな嬉しそうな顔で喜ぶ。
「まあとりあえずこの状況をどう乗り切るか…」
「うむ…敵に包囲される前までに行動に移さないと身動きすらままならなくなるだろう」
「だがこの人数だけでは敵陣への突撃はおろか、外に布陣しての防衛も厳しいのではないか?」
「敵一万以上に対してコッチは正規兵騎士団傭兵含めて7000人…しかも大半が負傷者だから、実際に動けるのは正規兵と俺ら傭兵がほとんどだから2000名ぐらいって考えるとなぁ…」
俺が座って地図を見ながら呟くと知り合いのハンター達は戦況を考えながら難しい顔で返すので、俺も厳しいな…と思いながら敵味方の戦力を比べた。
「うーん…考えてもしょうがない。ここから先は騎士団のお手並み拝見といきますか」
「…それもそうだな」
「とりあえず俺らの仕事は終わったし、一旦城塞に戻ろう。俺はちょっと辺境伯に報告してくる」
俺は諦めるように言って城塞へと帰還するために辺境伯の所へと戻る。
「今お時間よろしいですか?」
「ああ」
「我々傭兵部隊は予定していた仕事を終えたので城塞へと帰還いたします」
「…少し待ってくれ」
俺が確認を取って報告すると青年はちょっと考えて引き留めてきた。
「…少し、とはどのくらいの期間ですか?」
「今我々騎士団もこの先の作戦や敵の対応に追われている。その最中で重要な戦力が減るのは痛い、この砦の防衛が安定するまではココに留まっていてくれ」
「…分かりました」
俺の確認に青年は引き留めた理由と曖昧な期間を話すので俺は少し考えて了承する。
「ちょっと待ってくれ」
みんなに指示を伝えようと戻ろうとすると何故かまたしても青年が引き留めてきた。
「…まだ何か?」
「君の考えを聞かせてくれ。今この状況、この戦況でどう動くべきか」
「…自分の意見を?いいんですか?」
「ああ」
俺の問いに青年が意外な事を言うので確認するの頷いて了承する。
「まず率直に言って今の状況では自分達傭兵部隊に出来る事は何も無いですね。敵を攻撃するにしても砦を防衛するにしても…たった600名の傭兵だけでは人数が圧倒的に足りません」
「それはそうだ」
「確かに」
俺が思ってた事をそのまま言うと周りの騎士達も同意した。
「…ならば人数が増えたらどうだ?正規兵や騎士団を指揮するとなれば?」
「それは当然色々な作戦を使えるようになりますね」
「例えば?」
「例えば?…そうですねぇ…最後の拠点を数の差を利用して挟撃する、敵が諦めるまで防衛を続ける、投降兵達の引き渡しを利用して一定数の敵を拠点から離す…という手も…」
青年はまさかの提案をして予想を尋ねてくるので俺はパッと思い浮かぶだけの作戦を告げる。
「…投降兵の引き渡しを利用する…か…」
「あえてこの砦を敵に渡し、戦力を分散させてから二番目の砦を狙う…という手もありますね。…ん…?あ…」
青年の呟きに俺は追加でたった今思いついた策を告げると、ふと面白い作戦を閃いた。
「なるほど。二番目の砦さえ取れればこの砦が敵の手に落ちても孤立するワケか…その考えは無かった」
「しかしこの砦が敵の手に落ちれば奥の砦が孤立しますぞ。もし二番目の砦を速やかに落としきれなかった場合、逆に我々の拠点が全て敵に制圧し返される…という危険が高く採用すべきでは無いかと」
青年が感心したような感じで意外そうに言うと周りにいた騎士の一人が失敗した時の事を考えて反対してくる。
「…ふむ…君は部下の意見をどう思う?」
「全くの正論で反論のしようがありません。自分なら成功率の高い策を選ぶので素晴らしき判断だと思います」
「そうか」
青年は考えながら俺に話を振ってくるので褒めるように言うと何故か納得いかなそうに面白くなさそうな顔で返された。
「…うーむ…」
「…実はさきほど思いついた面白い作戦があるのですが」
「なんだ?」
困ったように腕を組んで考える青年に俺が断りを入れるように言うと身を乗り出して食いつくかのように聞く。
「投降兵の装備を全て没収し、全員をこの砦にて解放すると敵に伝えます」
「ほう」
「そして兵を三番目の砦と城塞側からこの砦を挟み込むような形で布陣させて待機させて置きます」
「…それになんの意味があるというのだ」
俺の説明に青年は興味深そうに聞くも周りにいた騎士達の一人が面白くなさそうに理由を尋ねる。
「引き渡しの条件として『司令官が直々に引き渡しに応じること』を盛り込めばおそらく敵は大将を守るために大軍を率いてくるでしょう」
「…なるほど、二番目の砦の戦力を減らす作戦か」
「そこで…騎士団にはもう一度山側の同じ場所から二番目の砦に奇襲をかけてもらいます」
「なんだと!?」
「馬鹿な!」
「ありえん!」
まだ俺は最後まで説明していないというのに騎士団の面々は反発するような反応を見せた。
「この作戦では三番目の砦からも兵を向かわせれば奇襲に失敗しても挟み撃ちにはなるので、今回のような事態にはならないかと」
「一度失敗した作戦を再び…か…確かに面白い。よし、今この時より君に騎士団を含む全兵士の指揮権を与えよう」
「…ありがとうございます」
俺が説明し終わると青年は考えるように呟き、急に権限を与えて来るので俺は驚きながらも一応お礼を言う。
「な…!」
「全兵士の指揮権を…!?」
「騎士団長である俺も指揮の範囲内だ。騎士団を使う時は俺に指示をくれ」
周りの騎士達が驚くと青年も俺の指揮下に入るらしく…
「では早速。騎士団は城塞に帰還し、負傷者達の治療が完了し次第奇襲作戦を実行して下さい」
「了承した。これより騎士団は城塞へと速やかに帰還する!」
俺が指示を出すと青年は直ぐに行動へと移して騎士団に命令を下す。
「あ。忘れてた…投降兵の引き渡しの手紙を書いて貰っても良いですか?俺の名前だと多分効果無いので」
「うむ、分かった。デサンド、騎士団は任せたぞ」
「はっ!お任せ下さい!速やかに、そして確実に負傷者を含めた騎士団全員を城塞へと帰還させます!」
俺の追加での指示に青年は嫌な顔一つせずに了承すると近くにいた部下に指揮を任せる。
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