青年期 29
「…君が傭兵達を率いてた指揮官か。危ない所を助けてもらい感謝申し上げる」
…知り合いのハンター達と地面に広げた地図を見ながら話し合っていると、一人の騎士が話しかけて来てポーズを取りながらお礼を言い出した。
「ああ、うん。間に合って良かったよ」
「…その件で我らが騎士団長…辺境伯から君を連れてくるよう仰せつかっているのだが、今時間はよろしいか?」
そして辺境伯からの呼び出しを告げて確認してくるので…
「辺境伯が?俺もちょうど話があるし、ちょっと行ってくる」
「ああ」
「分かった」
「コッチの事は気にするな」
俺が立ち上がって知り合いのハンター達に金のポーズを見せながら断りを入れると、笑って送り出してくれる。
「騎士団長。お連れいたしました」
「ご苦労。…君は…確か大通りで見た…そうか、傭兵だったのか」
砦の中央で木の椅子に座っていた青年の所に案内されると騎士が報告し、青年は労いの言葉をかけた後に俺を見て意外そうな顔で言う。
「初めまして」
「先ほどの窮地での援軍、本当に助かった。騎士団を代表し感謝申し上げる」
「あ、はあ…」
「…更に敵の砦を二つも制圧するとは…我々でさえ困難を極めていた難事をこうもアッサリと片付けるその働き振り、恐れ入る」
俺が挨拶すると青年は頭を下げながらお礼を言うので反応に困っていると感心するように褒めてきた。
「しかし、いくらなんでも手際が良すぎるな。報告を聞く限りではまるでこうなる事を事前に知っていたかのような行動ではないか」
「はい。敵の動きについては事前に予想がついてました。自分達が最初の出撃を断ったのもそのためです」
訝しむかのように責めるような視線と口調で言う青年に俺はアッサリと肯定する。
「…なぜその旨を伝えなかった?予想がついていたなら…いや、その前に傭兵が仕事を断るリスクは重々承知のハズだろう」
「言っても信じないと判断しました。それに再契約をする事も分かっていたので」
「なぜそう言える?俺が再契約をするという根拠を話せ」
「『人手不足』や『戦力不足』です。騎士団が敵拠点へと奇襲をかけるのなら城塞の守りが薄くなるのは避けられないので、一人でも多く戦力が必要になると思いました」
不審がる青年の問いに説明するように返すと更に尋ねられたので俺は解説するように話した。
「…なるほどな。確かにその状況ならば傭兵を再び雇う事にもなるだろう」
「今回は辺境伯が居なかったので城塞の守りを任されていた騎士の人にお願いしました。自分達傭兵部隊の作戦を話したら直ぐに了承して協力してくれましたよ」
「…どうりで正規兵がいるワケだ…囮に使ったな?我々騎士団を。そして口実にも」
「はい。そのおかげで敵の拠点を二つ奪う事が出来ました」
俺の話を聞いて青年は納得したように呟き、面白くなさそうな顔で睨みながら確認するので俺は笑顔で肯定して作戦の成果を告げる。
「なので、自分のワガママを聞いて貰えませんか?」
「…言ってみろ」
「一つはお金、報酬を増やしてくれると助かります。傭兵達には『上手くいけば報酬が二倍、三倍になる』と言って命がけで騎士団を助けに行きましたので」
俺が余裕の笑顔のまま要求を告げると内容を聞くので報酬の話をした。
「ちなみに南の侯爵の所では一週間でも一ヶ月でも、みんな最低半年分の報酬は貰えたそうです」
俺は前回の侯爵の所での報酬の例を挙げて賃金交渉を始める。
「…考えておこう。次はなんだ?」
「ココとあと一つの拠点にいる投降兵…捕虜の解放、もしくは殺さない事を約束して欲しいです」
「馬鹿な!貴様、自分が今なにを言ってるか分かっているのか!?」
「はい。ですが殺してしまうと敵が次から投降しなくなるのでマイナス…デメリットの面が大きくなります」
青年の催促に俺が最後の要求を告げると拒否るかのような拒絶反応を示しながら確認してくるので俺は笑顔のままその理由を話した。
「戦争は遊びじゃないんだぞ…!貴様は効率や合理性だけで戦いに勝てると思っているのか?」
「はい。もちろんです」
青年が怒っているような呆れているような感じで言うので俺はキッパリと言い切る。
「……はぁ…名を」
「え?」
「名を聞かせろ。貴様はとんでもない愚か者か、それとも稀代の名将となるか…名を覚えておいてやる」
青年は開いた口が塞がらないようなポカーンとした反応を見せた後に呆れながらため息を吐いてポツリと呟き、俺が聞き返すと呆れて疲れたように投げやりに返す。
「『リデック・ゼルハイト』です」
「リデック…ゼルハイト…!あのゼルハイト家の長男か!まさか…!いや、気づくチャンスは何度かあったはずだ…!まさか…まさか!!」
俺の自己紹介に青年は一旦驚いた後に慌てたように更に驚く。
「大通りで最初に見た時に気づくべきだった…!あの一緒にいた女性も…くそっ!己の未熟さに、己の目の節穴さに腹が立つ!!」
「あの…」
「すまない、まさか侯爵の所から直ぐに我々の所まで来ていたなどと予想がつかなかった。侯爵の所での活躍、噂は聞いている」
あの戦場での名乗りで気づくべきだったのに…!!と、青年は何故か物凄く悔しがりながら自分の太ももを殴った。
「…そちらの要求は全て呑もう。それがマスタークラスのハンターに働いた無礼へのせめてもの…」
「ありがとうございます」
青年が少しして冷静になったかと思えば顔に手を当てながら返答して理由を呟くので俺は軽く頭を下げてお礼を言う。
「いや、こちらこそすまなかった。『知らなかった』などと言い訳のしようもない」
「はあ…では、失礼します」
青年は何故か謝るような事を言うので俺は反応に困りながら返し、別れの挨拶をしてみんなの所へと戻る。
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