少年期 9

「…おおー、流石に熊だとゴブリンの爪とは全然違う」


「岩なども粘土のように簡単に切り裂けますから…扱いには気をつけて下さい」


「はい」



俺が歩きながら手を部分変化させて確認するとおじさんが注意してくるので俺は太く鋭く頑丈な爪を見ながら返事する。



「…うーん…でもコレじゃ威力は高くても…」



俺はその爪で壁を引っ掻きながら歩き、物が掴めない弱点を発見して呟いた。



「…あっ!えっ!?」



そして俺が自分の手を見ながら熊の爪のままゴブリンの爪に変えて鋭さや頑丈さ、力強さはそのままに元の指のように手先の起用さを取り戻すため色々試してると…



先を歩いてたお姉さんが何かを発見したかのように声を上げて驚く。



「アレは…!!」


「『ミノタウロス』。何故最下層の魔物がこんな…第三階層に…!?」



男も通路の先にいた魔物を見て驚くとおじさんも名前を言いながら驚いた。



「ミノタウロス?」


「非常に好戦的で凶暴、そしてこのダンジョンではボスに次ぐ強さの危険な魔物です。熟練のハンターでさえ一人では勝てないほどで、本来なら最下層にしか存在しないのですが…」



俺の疑問におじさんは不思議がりながら説明する。



「どう考えてもおかしいです。あのミノタウロスがこんなところにいるはずが…」


「まさか…誰かが連れて来たのか?なんて迷惑な…!」



お姉さんが訝しむように言うと男は状況を予想しながら怒るように呟いた。



「…やっぱり強い?」


「ええ。戦い方は力任せそのもので、たった一撃でもガードが間に合わずに当たれば致命傷になりかねず…下手すれば即死するほど。あのグリーズベアーでも比にならないほどの筋力を持つ魔物です」



俺の確認におじさんはさっき戦った魔物を挙げて危険性を説く。



「しかしグリーズベアーとは違い、鈍重なので動きに細心の注意を払って観察していればまず攻撃が当たる事はありません。が…防御力も高く体力も多いので、もし戦うのであれば高確率で持久戦になる事を覚悟しておいた方がいいですね」


「なるほど」


「坊ちゃん、アレと戦うのならせめて私の防具を…」


「ありがとう。でも大丈夫」



おじさんが攻略方を教えてくれるとお姉さんが自分の装備を外しながら言うので俺はお礼を言って遠慮する。



「『大丈夫』って…」


「老師の話を聞く限り当たらなければどうという事はない…ハズ」


「それはそうですが…」



心配そうに言うお姉さんにそう告げるも納得してない感じで呟かれた。



「では行きます!」


「あっ!」



俺がミノタウロスに向かって走るとお姉さんは驚いたように声を上げる。



「…ブモ?」


「遅い!」


「ブ…!」



距離が近づくとミノタウロスに気づかれたが俺は先手を取ってダチョウの脚に部分変化させ…



懐に飛び込むと直ぐにジャンプしてゴブリンと熊の爪に変化させてる右手を、熊の腕力で心臓の位置めがけて貫手を突っ込む。



「ブ…モ…!」


「…楽勝だったな」



左手でミノタウロスの胸を押しながら右手で心臓を抜き取って着地しながら呟くとミノタウロスの巨体が倒れる。



…するとミノタウロスの姿が消えて手に持ってた大きな心臓がクリスタルのような魔石に変わった。



「す、すごい…!」


「まさか、あのミノタウロスを…!」


「まさに瞬殺、するとは…」


「はい」



その様子を見ていたお姉さん達が驚愕しながら呟くので俺はお姉さんに結構大きめの魔石を差し出す。



「あ、ありがとうございます…」


「いやはや…とても10歳になったばかりの子供とは思えませんな…あのミノタウロスまでも素手で倒してしまうなんて…世界は広い」


「相性の問題もあっただろうが、ソレを差し引いても、とても信じられん…流石はリデック君。自分の限界を知らぬ子供とはどこまでも強いものだ…」



お姉さんは呆然とした様子で受け取り、おじさんや男も呆然としながら自分の認識を改めるように呟く。



「…あ。角と斧が落ちてる…けど、あの斧ってこんな小さかったっけ?」


「魔物が持つ武器は本体が消えれば魔素の関係で人間サイズまで縮まるんです。原因は未だ不明ですが」



俺が地面に落ちてる素材を拾ってミノタウロスが持ってた斧を拾いながら疑問に思うとおじさんが説明してくれた。



「そうなんですか?」


「はい。でもありがたい事ですよ?4mを超すミノタウロスが持つサイズの斧は、我々人間には大きすぎて…重すぎてとてもじゃありませんが振り回せませんからね」


「…確かに…」



俺の問いにおじさんがそう返すので俺は納得しながら呟く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る