青年期 94
「…団長、居るかい?」
…夕方、俺らが宿屋の部屋で夕飯を食べていると女性がドアをノックして確認してくる。
「…もう仕事の時間?」
「いや…それがどうやら移動中に襲撃に遭ったらしく…」
そのままドアを開けて入って来た女性に俺が飯を食いながら尋ねると困ったような顔で言い淀む。
「拐われた?」
「その報告は来てないけど時間の問題だろうね…ま、そういうわけだからあたしらの仕事は無くなったって事を伝えに来た」
俺の確認に女性は難しそうな顔で呟くと両手を広げて残念そうに告げた。
「ふーん…どこらへんで襲撃されたの?」
「…確かカルッジィナ村の近くって話だけど…」
「…どこ?」
「ここから北西に一時間ぐらいの場所にある。近くに森があるから運が良ければソコに逃げ込んで刺客をなんとかやり過ごし王都まで…って事もあるだろうが、そうなる可能性はかなり低いと思うよ」
30分も逃げ切れれば良い方さ。と、女性は現実的な予想と共に説明してくれる。
「…もしかして迎えに行く気ですか?」
「うーん…どうしようか迷ってる」
「やめときな。今からじゃ間に合うはずも無い。無駄足になるだけだよ」
「それもそうですよね」
お姉さんの問いに俺がそう返すと女性が止めてきてお姉さんも賛同した。
「…んじゃ、ちょっと様子を見に行ってみるわ」
「結局行くんですか?」
「…まあ好きにしたらいいさ」
俺が決断するとお姉さんは笑いながら返し、女性は呆れたように言う。
「もしかしたらまだ刺客がいるかもしれないし」
「あ、目的はソレですか」
「もしかしたらまた変化魔法の使い手とかいるかもしれないじゃん?後学のために戦って経験値を貯めときたいんだよね」
「…しょうがない、それじゃあたしも一緒に行くとするか。土地勘が無いあんたよりもあたしの方が見つけ易いし…なによりあたしも変化魔法の使い手と戦ってみたい」
噂だけでまだ一度も見た事すら無いからね。と、女性は俺の考えに同意するかのように言いながら同行を申し出る。
「じゃあお互いに準備してから王都の門の所で落ち合おうか」
「あたしは先に行って待ってるよ。北門から出た方が良い…なるべく早く来てくれ」
「分かった」
俺の提案に女性は待ち合わせ場所を指定して部屋から出て行き…
俺は直ぐに変化魔法を使って分身した。
「私も行きます?」
「「二人で十分じゃない?」」
「でも令嬢が怪我してるかもしれませんよ?」
「「…確かに。でも危ないから分身でね」」
「はい。ありがとうございます」
お姉さんも同行するように確認して来て俺らが断るも回復魔法が必要になる事態を想定し、俺らは納得して条件付きで同行を認める。
「じゃ、行ってくる」
「頼んだぜ」
「よろしくね」
「回復魔法が必要にならない事を祈ってて」
俺とお姉さんは分身達を送り出して夕飯の残りを食べる事に。
「…ん?なんだ、大魔導師様も一緒に来るのかい?」
「もしかしたら令嬢が怪我してるかもしれませんから」
…待ち合わせ場所である北門に向かうと女性は分身のお姉さんを見て驚きながら意外そうに言い、分身のお姉さんは同行する理由を告げた。
「でも刺客がいるかもしれないよ?」
「坊ちゃんがいるので大丈夫です。それでもいざとなったら逃してくれるでしょうし」
女性の心配そうな気を遣った確認に分身のお姉さんは分身の俺を見ながら返す。
「ま、そういう事なら心配ないか…じゃあ西側からと北側から二手に分かれてカルッジィナ村を目指そう。もしかしたらどっちかが逃げてる最中に遭遇するかもしれない」
「了解」
「あたしは西側から行くよ。道中見かけなければそのまま森に入るから…はっ!」
女性は馬に乗りながら作戦を立てるので分身の俺が了承すると女性が自分の予定を話して馬を走らせる。
「じゃあ俺達も行こうか」
「はい」
分身の俺が指示しながら馬に乗ると分身のお姉さんも馬に乗り…
分身の俺は変化魔法の極技その2を使って二頭の馬に部分変化と並行変化をかけた。
「…これで間に合えばいいけど…」
普通の馬の4倍から5倍の高速で走る改造馬に乗りながら分身の俺は呟く。
「…おっと、もう少し西か…」
「坊ちゃん、よく…片手で、済みますね…」
…地図を片手に進路を変えると並走している改造馬の手綱を両手で握っている分身のお姉さんが微妙な顔で呟いた。
「別に手放しでも問題無いよ」
「…す、凄い…!」
分身の俺が手綱から両手を離して体幹と太ももの筋力で維持しながら言うと分身のお姉さんが驚きながら返す。
「馬上でも両手が使えないと戦いの時に不利になるからね」
「それは、そうですが…」
「まあでも騎馬戦なんてほとんどやらないし、改造馬を使うんなら武器を使う必要すら無いから両手をフリーに出来てもあんまり意味無いんだけど」
「…確かに」
分身の俺の説明に分身のお姉さんは微妙な顔で返し、笑いながらの発言にまたしても微妙な顔で納得するように言う。
「でも、やっぱり、速い、ですね…これなら、20分、ぐらいでは…」
「…令嬢が刺客から30分ぐらい逃げれるとすればギリギリで間に合うか…?」
分身のお姉さんがロデオのように馬に揺られながら到着時間を予想するので、分身の俺は女性の予想を思い出しながらちょっと期待して呟く。
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