青年期 26

…結局この砦内に居た敵兵達ももはや勝ち目は無いと悟ったのか、直ぐに降伏するとほとんどの兵が武器を捨てて投降した。



「いやー、早く楽に済んで良かった良かった」


「…お前さんはあの崖の上から乗り込んだんだよな…?」



正規兵と傭兵達が投降兵達を拘束してる様子を見ながら俺が笑って呟くと男が崖を見上げながら不思議そうに聞いてくる。



「うん」


「…更に一人で大量の兵を相手にして内側から門まで開けているのに、何故その格好で未だに無傷のままなんだ…?」



俺は傭兵部隊が来た時点で分身は解除していたので男は勘違いしながら疑問を尋ねた。



「そりゃ先手を取って攻撃してるし…そもそも身軽な分、攻撃はほとんど回避してるからね」


「…身軽とかそういうレベルや次元の話では無いと思うが…なぜお前さんのような傑物が今まで無名だったんだ…?」


「ははは!彼が無名だって?」


「…未だに少年の正体が分かっていないのか」



俺が理由を話すと男は微妙な顔をしながら疑問を呟き、周りにいた知り合いのハンターが笑ったり驚いたりしながら返す。



「…そんなに有名なのか?…そう言えばまだ名前を聞いていなかったな」


「俺は『リデック・ゼルハイト』って言うんだ。よろしく」


「リデック…ゼルハイト…!あのゼルハイト家の!…と言う事は…あのM級のハンターではないのか!?」



男の不思議そうな問いと呟きに俺が今更ながら自己紹介をすると男が俺の名前を呟いて思い出すように驚愕する。



「そうだよ」


「そうか…!お前さんが…!噂はよく聞いていた。会えて光栄だ」



俺が肯定すると男は驚きながら手を差し出すので握手すると嬉しそうに言う。



「しかし、そうか…確かに有名も有名。さっきのは撤回しよう。いや、撤回させてくれ」


「俺は別にどっちでも」


「ははは、見た目だけではどう見ても強そうには見えないから勘違いするのもしょうがない」


「ダンジョン内で会うのと外で会うのとでは印象が天と地ほどの差が生ずるのは必然。しょうがない事だ」



男の恥ずかしそうな感じでの発言に俺が適当に返すと知り合いのハンター達は笑いながら微笑ましそうに告げた。





「…さて、じゃあさっきトコに戻ろうか。次はウチの騎士団の救出に行った方が良さそうだ」


「了解だ」


「分かった」


「兵を集めてくるか」



俺らが雑談を始めて一時間もしない内に全ての投降兵の拘束が終わったようなので、次の指示を出すと知り合いのハンター達は了承して砦内の傭兵部隊を集め始める。



「よし、急いで戻るぞ!戻った後は飯だ!」


「「「おおー!!」」」



俺は集まった傭兵達に指示を出して急いで来た道を戻り、一番目の砦へと移動した。



「…待ち伏せとか居そうなもんだけどな…」


「敵も余裕が無いんじゃない?」


「騎士団を包囲している間に拠点を二つも奪われたんだ、展開が早すぎて伏兵を潜ませるには時間が足りないんだろうよ」



一応警戒しながら来た道を進んで行くも拍子抜けするぐらいに何もなく…



進軍がスムーズにいくので俺が不思議に思いながら呟くと知り合いのハンター達が予想しながら返してくる。




…流石に一度通った道なので、一時間ほどで一番目の砦へと着く事ができた。




「今から一時間ほど休憩!ちゃんと飯食って、しっかり身体を休めて、準備を整えてくれ!」


「「「おおー!!」」」



全員が拠点内に入ったのを確認して指示を出すとみんなは返事をしてバラけ、知り合いのハンター達が俺の周りに集まってくる。



「…おそらく次は侯爵のトコと同じく壁としての防衛戦になるだろうから…激戦になるかもしれない」


「…騎士団が逃げるまでの時間稼ぎか」



俺がその場で座り込みながら簡単に作戦を話して予想すると、知り合いのハンター達も座り込んだ。



「うん。多分騎士団は二番目の拠点を山側から奇襲をかける予定だったでしょ?って事は多分奥のココらへんかな?」



俺は地図を広げて騎士団がいるであろう場所を予想しながら指を差す。



「…ココからでは遠いな」


「ココとの間にあるこの狭い道にも敵がいるだろうし、簡単にはいかなそうだ」


「とりあえずアッチの時と一緒で俺が騎士団のトコまで強行突撃して合流する」


「そして騎士団が逃げるまで空けた脱出口の維持、か…」



地図を見ながらハンター達が難しそうな顔をするので俺が作戦の内容を話すと男も難しい顔をしながら呟いた。



「…うーん…敵の騎士団が三番目の拠点から進んだ所…この北西の側から包囲してくれてたら助かるんだけど…」


「奴らがどこの拠点に駐留していたか、で状況は変わってくるだろうな」


「もし運悪く俺らの前にいた場合は即座に撤退しようか。ウチの騎士団を逃せたとしても傭兵達の犠牲が大き過ぎて部隊が壊滅状態になるかもしれないし」



時間がかかっても三番目の砦の方から迂回しよう。と、俺は地図を見ながら最悪の状況を想定して知り合いのハンター達にその場合の対応策を告げる。



「大丈夫なのか?一刻を争う状況かもしれんぞ?」


「その場合は俺一人残るから傭兵部隊の指揮はみんなに任せる」


「…一人って……まあ、お前さんなら心配するだけ野暮というものか」



ハンターの一人が確認して来るのでそう返すと男が呆れながらも驚いたように呟いたがすぐに笑う。



「…あー…その場合、最悪辺境伯を逃すために突撃して突破を図る事になるかぁ?…それだと三番目の砦に逃げ込む可能性もあるのか…」


「だとすれば合流して直ぐに三番目の砦まで撤退、という事になるのか?」


「そうなるかも…ごめん、ちょっと飯食べながら迂回した場合の作戦内容を細かく詰めていこうか」


「分かった」


「曖昧で適当に指示をされるよりも生存率や成功率が上がるのだ、問題はあるまい」


「ありがと」



俺は地図を見ながらゲーム感覚で戦況を予想し、最悪のヤバイ状況を想定しながら知り合いのハンター達に断りを入れて作戦会議を開いて対策を練る事にした。

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