青年期 66

その数日後。



「団長!やられた!」


「どうした?」


「クドアが巡回中に刺された!」



露店巡りをしてると団員が慌てた様子で走ってきて異常事態が発生した事を告げる。



「なんだって?今すぐ案内してくれ」


「分かった!コッチだ!」


「手遅れにならないと良いんですが…」



俺とお姉さんは観光を一旦中止して急いで襲われた団員の所へと向かった。



「…団長!」


「…まだ生きてて良かった」


「…団長…」



…急いで走る事5分ぐらいで建物にもたれかかって座らされてる団員の下へと到着し、俺は状態を確認してまだ息がある事に安堵する。



「…お願い」


「はい」



とりあえず団員に変化魔法をかけてスライム化からの止血をしてからお姉さんに回復魔法を使うよう指示した。



「…コレで大丈夫だと思います」


「それで、犯人は?」


「サリヴとラドバーダが追っている」



無詠唱で魔法を使ったお姉さんの発言に俺が尋ねたらちゃんと他の団員が追っている事を報告してくる。



「…俺達も行こう。二人は怪我人を一旦兵舎に連れてって」


「「分かった」」


「…俺は、大丈夫だ…」


「また別の奴に襲われるかもしれないから戻っといて」


「…分かった…」



俺の指示に二人の団員は従うも襲われた団員が強がりを言って立ち上がり出すのでもう一度同じ指示を出すと大人しく従う。



「どこの方向に行ったか分かる?」


「アッチの方だ」


「分かった。じゃあ行こうか」


「はい」



俺は犯人が逃げた方向を聞いた後にお姉さんに合図を出して走った。



「団長!ちょうど良かった!さっき巡回中に…」


「聞いた。怪我人は治したから…犯人は?」


「コッチだ!」



走り出して直ぐに団員が声をかけて報告してくるが俺は途中で遮って尋ね、案内されるがままについて行く。



「あっ!団長!犯人はこの中に逃げ込みました!」


「…ココに?」



二つ目の壁の内側である富裕層区域に入ると大きな建物の前に団員が立っていて、俺を見ると報告してくる。



「ココがアジトか?」



俺は疑問に思いつつも一応呼び鈴を鳴らした。



「どなた様でしょうか?」


「俺はこの都市の防衛を任されてる傭兵団の団長で、団員を襲った犯人がこの中に逃げ込んだのを見たって。中を調べさせてもらえない?」


「はぁ…主人を呼んでまいりますので少々お待ちください」



中から出てきた使用人っぽい男性に自己紹介しながら用件を伝えると不思議そうな顔をして家の中に戻る。



「…これはこれは『猟兵隊』の。何用ですかな?」



…待つ事5分ぐらいで出てきたおっさんは白々しい感じで用件を尋ねてきた。



「さっきウチの団員が襲われましてね。犯人を追いかけたらこの家に入った…との事で、安全確認のために家の中を捜索させて下さい」


「断ります。他国の傭兵団を家の中に入れるなんて何を壊され、何を盗まれるか分かったもんじゃない…なんせ中には大金や価値が高い物がいっぱいありますもので」



俺が再び用件を伝えるとおっさんは拒否った後に理由を話す。



「おや、それは犯人を匿っている…と思われても仕方ない事になりますが?」


「証拠はあるんですか?もし家の中を探して犯人が見つからなかった場合の責任は?金や物が盗まれた場合の保証は?ソレがはっきりしない事には家の中にはとても入れられませんな。では失礼」



俺の確認におっさんは余裕の笑顔で痛い所を突いてくると家の中に戻って行った。



「…坊ちゃん…」


「チッ…みんなに伝えて『もし襲われた場合は犯人を速やかにその場で捕らえる事』って」


「了解」


「分かった」


「…この場では引くけど、後で覚えてろよ…」



お姉さんが心配そうに呟くので俺は舌打ちをして指示を出した後に大きな家を見ながら捨て台詞を呟いて兵舎へと戻る。



「団長!犯人は?」


「逃げられた。多分アイツも内通者の一人だ」


「明らかに事情を知ってる感じでしたもんね…」



さっき俺を呼びに来ていた団員の問いに俺が答えながら予想するとお姉さんも困ったように賛同した。



「『逃げられた』って…大丈夫なのか?」


「大丈夫大丈夫、将軍が帰って来たら報告して粛清してもらうから。それまで俺らは死人が出ないように対策を取れば良いし」


「…団長がそう言うなら…」



団員の不安そうな確認に俺が楽観的に返すと渋々ではあるが大人しく引き下がる。



「あ。隊長達を集めてくれる?これからその対策について話し合うから」


「分かった」



俺が指示を出すと団員は隊長達を集めに行く。



「どうするんですか?」


「とりあえず外に出る時は防具を着けさせた方がいいかも」


「なるほど。確かに防具を着用してれば深手には至らなそうですもんね」


「安全なはずの街中でも防具を必要とする、ってのも悲しい話だけどしょうがない」



お姉さんの問いにパッと思いついた対策を話すと支持してくれ、俺は微妙な感じで肩を竦めながら返す。



「今回の件も防具を着けてたら軽傷で済んでたかもしれませんし…」


「あと外出時の人数も4名以上に増やした方がいいね。次からは複数で襲われる可能性もあるわけだし」



巡回する場所も変えた方がいいかも…と、俺は内通者や工作員の襲撃に備えた対策を考えながら呟いた。

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