青年期 67

…隊長達を集めて対策を話し合ってから一週間後。



「団長!まただ!」


「…また襲撃?で、怪我の程度は?」


「幸い軽傷で済んだらしいが、また後ろから襲われたらしい」



自室で夕飯を食べてる最中に団員がノックしながら用件を言うので俺がドアを開けて聞くと報告を話す。



「犯人は?」


「それが…途中で見失ったんだと」


「どうせまたあの家に逃げ込んだんだろうな…」


「今回は前回から結構間隔が空きましたね」



俺の確認に団員は困ったように答え、俺がため息混じりに呟くとお姉さんが意外そうに言う。



「襲撃の回数や頻度を増やすと俺らに踏み込まれるって思って言い訳出来るようにタイミングを図ってるんじゃない?」


「…なるほど」


「どうやら『二日に一回か、一日に二度襲撃に遭ったら許さん』って観光中に言いまくったのがちゃんと牽制になってるみたいだね」



俺が相手の考えを予想するとお姉さんは納得したように呟き、俺は笑いながら対策の一つが有効である事を告げる。




…その三日後。




どうやら他の領の兵士達がこの都市に向かって動き出している…という情報を行商人達から聞いた。



早いと二週間程度でこの都市までやってくるとか。



「…ついに敵が動きを見せましたか…」


「みたいだね。でも将軍が帰って来るまでだからせいぜい一週間ぐらいだし、うまく行けば将軍の帰還の方が早かったりして」


「そうなると良いですね」



若干不安そうに呟くお姉さんに俺が楽観的に返すと少し安心したかのように言う。



「まあ問題はコッチよりアッチかな…なんでも俺の領内に他の領の兵が軍事訓練とかで居座ってるみたいだし」


「そうなんですか?」


「一応陛下に『そこの領主である貴族に兵を退かすように言って欲しい』とお願いしてるけど…明日になっても兵が居座るようじゃ武力で退かさないといけないかも」



俺は拠点に残した分身からの報告に頭を悩ませながらお姉さんに国内でのめんどくさい現状を話す。



「どこの領なんですか?ガウ?ローズナー?」


「ローズナー領の方。隣のダルベル領から来てるっぽいから伯爵の差し金かな?」


「…あんな何も無い田舎に兵を差し向ける意味が分かりませんね…何が目的なんでしょう?」



お姉さんの問いに俺が答えて予想するとお姉さんは不思議そうに首を傾げる。



「さあ?権威の誇示か嫌がらせか…もしかしたら普通に土地を奪いに来たのかもしれない」


「うーん…でも領はちゃんと区切られてますからね…武力で実行支配しても周りからの信用が下がるだけで無意味では?」


「だよね…ダルベル伯爵は何を考えてるんだか…」



俺はお姉さんの話を聞いて呆れながらため息混じりに呟く。



「でも傭兵達はみんなココに来てますけど…領内から集めた兵だけで大丈夫なんですか?」


「そのための分身だよ。1/4の俺一人で十分だと思うけど、相手がかなり強くない限りは1/8の二人や1/16の4人も居れば事足りるでしょ」



ソレで負けたら俺が直接出向くし。と、お姉さんの不安そうな確認に俺は笑いながら楽観的に返した。



「まあ正直坊ちゃんなら一人でも過剰戦力だとは思いますけど…」


「一応馬を10頭連れてって馬改造して突っ込ませる…って手もあるね」


「…それならケンタウロスに変化させた方が良いのでは?」



お姉さんが笑いながら同意するので、戦力を手取り早く増やす方法を告げると少し考えて提案してくる。



「ドラゴンやワイバーンにしないのと同じ理由だよ。変化元はあくまで『馬』なんだから、手が増えても使いこなせなければ無意味だって」


「…あー…忘れてました…私とした事が…すみません」



俺の否定的な返答にお姉さんは思い出したように呟いて恥ずかしそうな顔に謝った。



「忘れるのもしょうがない。先生は変化魔法を使えない上に俺が使う機会なんてのもほとんど無いんだし」


「そこまでの事態になんてなる事がありませんからね」



俺がフォローするように言うとお姉さんは気を取り直したかのように返す。




…翌日。




「んじゃ、行ってくるわ」


「おう。気をつけてな」



朝早くから分身の俺は分身の俺と話し、変化魔法でドラゴンに変身して自分の領土へと向かう。



「…お、いた」



…移動する事一時間ほどで自領であるローズナー領へと到着し、兵士達の野営を見つけたので直ぐにスライム化して着地する。



「…誰だ!…貴方は…まさか…!?」



そして兵士の野営地に近づくと見張りのために巡回していた兵が分身の俺に気づいて槍を構えるも驚いたように後ろに下がった。



「期限は今日の日の出だったけど…まだ居るって事は俺に対する宣戦布告って事で良いんだよね?」


「バカな…!猟兵隊は今ドードルに駐留してるはず…!それでなくとも王都からは三日以上はかかるというのに…!」



分身の俺の確認するような問いに兵士は驚愕しながら呟き、ジリジリと後ろへと下がって行く。



「んで?どうするの?」


「…くっ…!」


「あ」



分身の俺が再び問うと兵士は背中を向けて走り、野営地の中へと逃げ帰る。



分身の俺も後を追ってゆっくり歩いて行くとカンカン!という鐘の音が鳴り響いた。



「て、撤退だー!」

「逃げろー!」

「直ぐに撤退だー!」


「俺達が時間を稼ぐ!その間に撤退するんだ!」



…てっきり兵士達が集まってくるものだと思っていたら何故か急に兵士達が逃げ始め…



20人ぐらいの勇敢な兵士達が分身の俺の前に立ち塞がる。



「…逃げるんなら俺達が戦う意味無いんじゃ?まあやりたいんなら相手するけど」


「…逃して、くれるのか…?」


「どうぞどうぞ。俺が殺すのは悪人と余裕が無い時だけだし、自国民同士で争っても良い事なんて無いでしょ?」



分身の俺が微妙な顔をしながらそう告げると兵士の一人が険しい顔で確認してきたので分身の俺は逃走を促して理由を話した。



すると分身の俺の前に立ち塞がっていた兵士達も背中を見せて逃げ始め…



結局10分後には空の野営地だけが残り、やる事を終えたので分身を解除する事に。

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