青年期 65

…そして二度寝する事、数時間後。



「おはようございます」


「…おはよう」



昼前に起きるとお姉さんもとっくに戻って来てたらしく、起きた俺に気づいて挨拶をする。



「朝から大変でしたね…」


「全くだよ。ホント勘弁して欲しいものだね」


「気分転換にまたあの通りで露店を見に行きませんか?」


「…そうだね」



お姉さんが疲れたように呟くので俺が同意すると観光を提案し、俺はありがたく受ける事にした。



「…お。鍼灸の医学書だ」


「『しんきゅう』?なんですか、ソレ?」


「昨日の鍼を使った治療の事をそう言うらしいよ。面白そうだし読んでみようかな」



露店の本を漁っていると意外な物を見つけ、 興味があったのでとりあえず購入。



「…ん?コレって調味料?」


「ああ。他の大陸や島国の調味料さ」



別の露店でテーブルの上に瓶詰めで置かれている調味料っぽい物を見つけたので尋ねると予想通りの答えが返ってくる。



「へー…やっぱここら辺の国で扱ってる物とは全然違うなぁ…」



俺は山椒や胡椒、七味唐辛子っぽいものを見ながら呟く。



「…このドロドロした赤い液体みたいのは?」


「…確かトゥーバージャンという名の調味料だったような…ココにある物は辛いものばかりだから料理に使う際には量に気をつけな」



俺の問いに店主の女性は思い出すように教えてくれた後に注意を促してきた。



「…調味料以外にもあるんだ…コレは?」


「ジンジャーとガーリックだ。その隣にあるのがゴボーとレンコー」


「珍しい物ばっかりですね…ジンジャーの生なんて初めて見ました」



俺が他の瓶に入っている生の物や適当に置かれてる物を見ながら聞くと店主がめんどくさそうに答え、お姉さんが嬉しそうな反応をする。



「おっ、コレってもしかして…!」


「ああ、知ってるのかい?ブラックソース…アッチではシューユとかいう調味料だ」


「醤油!ついに見つけたぜ!長かった…!ようやく煮卵が…!…ふー……コレは?」



俺は真っ黒い液体を見て驚くと店主が不思議そうに名前を言うのでテンションが爆上がりしたが、一旦落ち着くために息を吐いて隣の瓶に入ってる液体を指差す。



「コレはラーユとか呼ばれている油」


「ラー油!…とりあえず唐辛子も買っとくか…えーと、とりあえず胡椒を200gと山椒を100g。七味を150gと…」



…露店の商品は全て確認したので、俺は欲しい物を欲しいだけ大人買いする。



「…こんなにいっぱい…本当に払える?」


「…ぼ、坊ちゃん…流石に買い過ぎでは?」



結構良い値段の…ぶっちゃけ高いみりんや醤油、ラー油を全部買い占めに走ると値段が値段になってしまったので店主が睨むように確認し、お姉さんが困惑したように言う。



「…『坊ちゃん』?じゃあアンタ良いトコの出か貴族かい?」


「一応隣国で貴族やってるけど…はい」


「貴族!…どうりでこんな大金を……人は見た目では分からないものだねぇ…」



店主の驚くような確認に俺は適当に返して金を払うと店主はまたしても驚きながら金を受け取って意外そうに呟いた。



「アンタ貴族なんだって!?ウチの品も見ていってくれよ!」


「ウチの品物なんてどうだい!」


「コッチも珍しい物が揃ってるぞ!」



…俺と店主のやり取りを聞いていた周りの露天商の人達がえらく必死になって呼び込みを始める。



「今はそんな金持ってないよ。元々買い物目的じゃないし」


「じゃあ欲しい物があれば言ってくれ!金額によってはアンタの国に行くから!」


「おい!抜け駆けするんじゃねぇ!」


「なんだと!?」


「…はいはい。みんな落ち着いてくれない?」



客引きがウザいので俺が嘘を吐くも商魂逞しい露天商の発言に一気に場が荒れ出し、俺はため息を吐いてパンパン!と手を叩き声をかけた。



「仕事熱心なのは良い事だけど、騒ぎを起こして治安部隊の仕事を増やすのはやめて。みんなが険悪なムードだったら売れる物も売れなくなるよ」


「…悪かった」


「俺の方こそ…」


「すまなかった」


「いや、俺も熱くなりすぎた。すまない」



俺の説教に露天商達は素直に大人しくなり、一触即発だった人達も互いに謝る。



「さて、じゃあ買い物を再開しようか」


「はい」



みんなが自分の店に戻るので俺は露店巡りを再開した。



「…ん?これは…」


「どうしました?」


「どっかの国の魔道書っぽいね。かなり古い感じだけど」


「へー…文字は読めないですけど図解的に魔道書で間違いないと思います」



本を売ってる露店で魔法の事が書かれてるのを発見してお姉さんに渡すもどうやら漢字は読めないらしい。



「翻訳の魔法とかあれば便利なのに…」


「確かに便利ですけど…それが出来るなら洗濯とか掃除とか料理も魔法で済むようになるんじゃないですか?」


「…流石に無理か」



俺の呟きにお姉さんが意地悪な笑顔で弄るように言い、俺は諦めるように返す。



「…コレも魔道書だ」


「え?」


「…コレもタイトルからして魔道書だろうし…」



俺は適当に二冊目の本を手に取って読むとまた魔法の事が書かれているので他にも無いか探してみる事に。



…結果は7冊の古い魔道書を発見。



「……回復魔法や属性魔法、強化魔法に弱化魔法…色んな魔法が載ってたのに変化魔法だけピンポイントで無かった…」


「そりゃあそうですよ」



俺が本の目次や中身をパラパラと軽く確認して落ち込みながら呟くとお姉さんが笑いながら相槌を打つ。



「だよね…まあなんか一応コレ、年代見るに180年も昔の本らしいし…貴重っぽいから買っとこ」


「あ、じゃあ後で私にも読ませて下さい!」



俺はこの本が将来高値で売れる貴重品である事に期待を込めて7冊全部購入した。

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