壮年期 42
「…疑問なのですが、自分がライツの王女の誘拐を指示したとして、どのようなメリットが?そんな面倒な事をする理由がありませんし、第一なぜ他国であるライツで事件を?ラスタ国内で起きた事であれば疑われても仕方のない事ではありますが…」
「そうだ。貴殿にはあのような自作自演をする必要性が無いはずなのだ。そしてなぜ自国であるラスタでは無く、ライツの貴族と共謀して事を起こしたのか…そこで、だ。本当に関与しているか否かを確認するために私が直接会う事にした」
分身の俺が否定するように疑問を聞くと国王も同意してわざわざ直接来た理由を話す。
「なるほど。正直に、率直に答えますと自分は関わってません。というか王女が誘拐されたと知って急いで助けに行っただけですし」
「…そうか。やはり証言は虚言であったか…!」
分身の俺のキッパリとした否定に国王はあっさりと信じて憤るような反応をした。
「…証言?」
「そうだ。盗賊団にナサリィの誘拐を依頼していたスキュリュ伯爵とシャリャン伯爵を拘束して話を聞いたのだが…責任逃れなのか、背後に指示をした人物がいるのか判断に困る曖昧な証言をしていたと聞く」
「そこから何故自分に?そもそも自分も盗賊団から名前を聞くまで存在自体知らなかったので繋がりは皆無のはずですが?」
分身の俺が不思議に思いながら聞くと国王は既に首謀者を捕らえているような事を言い、分身の俺は不思議に思ったまま疑問を尋ねる。
「…こちらのミスだ。ナサリィの話を聞いて襲撃から救出までがあまりに早く、最初から疑ってかかっていたばかりに伯爵達にはラスタとの関連やクライン辺境伯との繋がりを聞いてしまい、『使いの者と会った』などと共謀を仄めかすような虚言を引き出してしまった」
「なるほど。我が身可愛さで嘘を吐いたのか…まあ良くある事だけど巻き込まれた側からすればたまったもんじゃないな。急いで助けに行った結果、自作自演の黒幕と疑われるなんて」
「済まない。本当に申し訳ない」
国王の申し訳なさそうな顔での経緯の説明を聞いて分身の俺が呆れながら嫌味や皮肉を言うと国王は頭を下げて謝罪した。
「とりあえず疑いを晴らすために経緯を話しますが…王女を国境に送った翌日に国境を通る商人から『王女が襲撃されたらしい』という話を聞きました」
「…翌日、だと?」
「はい。自分は最初、狂言誘拐かなんかでラスタの治安が悪いとかのネガキャン…責めるための口実作りだと思いました」
分身の俺が当時の状況を話すと国王は驚いたように確認し、分身の俺は肯定して話を進める。
「馬鹿な!…いや、しかしそうか…確かに自国内の王女が賊の襲撃に遭うなど普通は考えられぬ…」
国王は否定した後に考えを改めるような感じで分身の俺の考えに一定の理解を示しながら呟いた。
「とはいえ、本当に誘拐されていた場合には大変な事になるので一応確認する意味でもとりあえず助けに行きました」
「…ナサリィが誘拐されて翌日…朝早くに知ったとしても移動時間が合わない気がするのだが…」
「噂には聞いていると思いますが自分は変化魔法の使い手なので、ダチョウやカースホースといった魔物に変化する事で早馬の二倍から三倍の速度で移動する事が出来ます。もちろんその分かなり疲れますけども」
「なるほど!そんな手が…!!」
分身の俺の話を聞いて国王が納得いかそうな顔で呟くのでその方法を教えると国王は目から鱗といった様子で感心したような反応をする。
「盗賊団と交渉したのも王女の居場所を確実に知るためです。力づくだと地下に監禁されていたり今回のように人違いだった場合にお手上げになりますので」
「…なるほどな。貴殿の言い分は正しい」
分身の俺が言い訳するように盗賊団と接触した理由を明かすと国王は腕を組み、目を瞑って考えるような態度を取った後に分身の俺の正当性を認めた。
「…自分が首謀者だと疑われているようですが…自分も最初、王女の兄弟が伯爵に指示して誘拐を実行させたのではないか?と疑いました」
「…なに?」
「なのでわざわざ城の中までついて行ったんですよ。まあ陛下や弟の王子の反応を見る限り大丈夫だろう…と、引き上げましたが」
分身の俺の意趣返しの発言に国王が若干顔を険しくするが分身の俺は構わず護衛として同行していた事と疑いが晴れた理由を話す。
「…そうか…妹ナサリィを救出してくれた事に心より感謝申し上げる。そして疑いをかけてしまい、誠に申し訳ない」
国王は座ったまま深く頭を下げて感謝と謝罪の言葉を同時に告げる。
「いえ、別に。まだ自分は何も不利益を被ってませんし」
「お礼やお詫びとして報酬を渡したいのだが、なにか要望や要求はあるだろうか?」
「…うーん…特に思いつく事はありませんね…しいて言えば持ってても困らないお金で貰えるとありがたいです」
分身の俺の返事に国王が予想外の確認をしてくるが現状恵まれてる俺がパッと思いつくものはなく…
かといって相手のメンツを考えると『いらない』と断れないので、とりあえずありきたりな要望を出す事に。
「了承した。近い内に猟兵隊の拠点へと届けさせよう」
「ありがとうございます。ではこれで失礼します」
国王は返事をすると馬車のドアを開け、意図を察した分身の俺はお礼を言って別れの挨拶をして馬車から降りた。
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