壮年期 41
…確認待ちで待機している普通の馬車の所へと行くと、ライツの王族親衛隊であろう上等な装備を身に纏った騎士達が周りを固めていて…
「…ほう、護衛の数が多いな…騎士が20人とは」
「ん?」
「…なんだお前は?」
「何か用か?」
分身の俺が意外に思いながら人数を数えて呟くと騎士の何人かが怪訝そうな顔をしながら不機嫌そうな顔で尋ねてくる。
「いや、ライツの国王から手紙が届いてね。こうして本人が来るのを待ってるってワケ」
「手紙…?まさか…!」
「…辺境伯の使いの者か?」
「しかし、会談はラスタの王都の近くにある猟兵隊の拠点で…という話じゃなかったのか?」
分身の俺の軽い感じでの返答に騎士達は驚いたような様子を見せて話し合う。
「…一応陛下に報告しよう」
「そうだな、判断を仰がねば…」
「見た目が普通の馬車なのは襲撃されないように?」
「そうだ。中身や大きさは当然普通の馬車と造りが違うが…この前、ライツ国内でナサリィ姫が賊の襲撃に遭うという大事件が起きてな」
「被害は馬車や馬だけで護衛の騎士を含めて人的被害は無かったが…王族を襲うなど断じて許せん!これだから恥を知らぬならず者どもは!」
騎士の何人かが国王に報告に行くらしく、分身の俺は待つ間に世間話としてふとした疑問を聞くと意外にも騎士達は普通に理由や経緯を教えてくれた。
「国境までは俺ら猟兵隊が護送したから安全だったのに…他国よりも自国の方が危ないなんて怖い話だ」
「違う!ナサリィ姫の場合は…」
「おい!喋りすぎだ!」
「すまん。聞かれたから、つい…」
分身の俺の肩を竦めての皮肉を込めた発言に騎士の一人が否定して反論しようとするも別の騎士に止められて謝る。
「…これは…辺境伯自らが国境まで出迎えてくれるとはな。光栄だ」
「えっ!?」「はっ!?」「なっ!?」
…国王が馬車から降りて来て微妙な顔をしながらも社交辞令のような事を言うと周りの騎士達が驚愕しながら分身の俺を見た。
「えーと、お初お目にかかります…で、いいんですか?自分は二度目ですが」
「そうだ、二度目だ。一度、王城で会ったな」
「ほ、本人だと…!?」
「ほ、本当にこんなヒョロくてどこにでもいそうな奴が、あの噂に名高いクライン辺境伯なのか…!?」
「…どう見ても、装いからしてただの一般庶民にしか見えないが…」
分身の俺の確認するような挨拶に国王は肯定し、前に会った事を覚えるかのように返すと、やはり周りの騎士達は分身の俺を見ながら信じられないかのように失礼な事を言い始める。
「…我が親衛隊の騎士達が無礼を働いて済まない。後からよく言い聞かせておくゆえ、この場は…」
「ああ、いえいえ。全然問題無いですよ。こうなるよう仕向けてるのは自分なので」
国王が微妙な顔で会釈するように軽く頭を下げながら騎士達の失礼な発言の謝罪をするが、分身の俺は拒否した。
「…そうか」
「それよりも陛下は良く一目で分かりましたね。普段からこういう格好なので基本的に記憶力の高い人以外は何度も会わないと気づいてくれないのですが」
「…それにも関連する事だが、話をするために自らココまで赴いた。馬車の中でもよろしいだろうか?」
ちょっと安心したような表情をした国王に分身の俺が意外に思いながら聞くと真剣な顔で用件を告げて場所の確認をしてくる。
「自分はどこでも構わないですよ」
「では中へ」
分身の俺は場所にこだわりなど無いので普通に了承すると国王は馬車のドアを開けて中へ入るよう促した。
「…この前の妹…我がライツの王女が誘拐された件について確認したい事がある」
「確認したいこと、ですか?」
「そうだ。クライン辺境伯、もしやあの誘拐は貴殿が仕組んだ事ではないのか?」
「…は?」
国王が馬車のドアを閉めて分身の俺の対面に座ると話を切り出し、分身の俺が不思議に思いながら相槌を打つと…
国王は断定するように予想外で意外な確認をしてくるので分身の俺は一瞬何を言ってるか理解出来ずに聞き返した。
「…シラを切っているのか本当に関与していないのか…私には判断がつかないが、コレが調査結果を纏めた報告書だ」
「…確認しても?」
「ああ。問題無い」
国王が困ったように呟きつつも書類の束を見せ、分身の俺は受け取るように書類の束を手に取って中身を確認する。
「ナサリィの乗る馬車が賊に襲撃されて半日もしない間に二つの盗賊団と接触したと聞く。いくらなんでも行動が早すぎる」
「そりゃ急がないとどうなるか分からない状況でしたし」
「…その二つの盗賊団の拠点はかなりの距離が離れていた。実際に試した結果ではとても一日で移動できる距離では無いとの報告を受けている」
国王は報告書を読んでる最中の分身の俺に疑惑を追及するかのように言い、分身の俺が答えると更に疑惑に思ってる事を告げた。
「それなら自分が黒幕だったとしても不可能では?その計画自体に欠陥があるように思えますが…」
「しかし、その報告書を読んで分かるように盗賊団に接触、交渉した人物は場違いなほどの平民のような見た目の男だという話だ。そんな事が出来るのはクライン辺境伯以外にありえぬ」
「まあ、確かに王女を取り返すために自分が直接交渉しましたけども…」
分身の俺の反論に国王は全然論理的じゃない内容で更に反論し、分身の俺は否定してもしょうがないので素直に認める。
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