壮年期 40

…その二日後。



珍しい事にラスタの拠点にライツの国王からの手紙が届いた。



「…へー」


「どんな内容が書かれてるんですか?」


「なんか直接会って話したい事があるんだと。ほら」



俺が手紙を読んで意外に思いながら呟くとお姉さんが興味津々といった様子で尋ね、内容を教えた後に手紙を渡す。



「…周りに知られたくない事、ってなんでしょう?もしかしてライツに寝返るよう交渉や説得を…?」


「…流石に無いでしょ。それなら同盟結ぶ必要無いし、同盟が成立した直後にソレやらかしたら周りの国の信用ガタ落ちってレベルじゃ済まなくなる」


「ですよね」



お姉さんは手紙を読んだ後に不思議そうな顔をするとハッとしたようにヤバい予想を言い出し、俺が一瞬ありそう…と思いながらも否定して反論すると直ぐに賛同する。



「まあとりあえず日にち的には明日あたり国境に着くぐらいかな?順調に進んでいれば、だけど」


「国境まで迎えに行くんですか?」


「アッチで話して帰ってもらえば早く済むからね。ココに来るまでに何かあると面倒じゃん?」


「まあ…私達の領土は安全ですが他の領土を通るとなると…ましてやライツの国王ですし…」



俺の想定にお姉さんが驚いたように確認するので肯定して理由を告げると微妙な感じで誘拐や襲撃の可能性を示唆しながら呟く。



「下手したらライツの国王だと思わずにただの貴族と勘違いして賊が襲撃する可能性もあるわけで」


「…王都の周辺は猟兵隊が定期的に依頼を受けて巡回しているので安全ですが…少し離れると一気に治安が悪くなりますからね…そんな状況下でも、もはや今の猟兵隊に襲いかかってくるならず者達は国内には存在しませんけど」



俺が最悪の展開を予想して話すとお姉さんは国内の治安にはまだまだ不安がある事を含みつつも、猟兵隊の戦力を自慢するかのように誇らしげに言う。



「そりゃそうでしょ。団員が一人でも襲われようもんなら規模によっては全軍投入するほど繋がりが強い上に、場合によっては俺も出るし」


「…今や坊ちゃんは神の加護を受けた『神の使者』とも噂されてますから…普通なら信じませんが、今までの噂のせいでみなさん普通に受け入れてしまってますし…」



俺は力の強さ…戦力的な感じで襲われない理由を話すも、お姉さんは微妙な顔で強さとは別に宗教的な…神秘性のおかげもあるような事を呟く。



「ただの部位鍛錬や日頃の修行とかの努力の成果がほぼ関係ない『神の加護』とかいうよく分からんチートのおかげとか言われるとめちゃくちゃムカつくけど、まあ仕方ない」


「そう思わないと納得も理解も出来ないんですよ、普通は。坊ちゃんって規格外で常識外の事ばっかりするから…私だって直接見てても…」


「はいはい」



俺がなんとも言えない顔で文句や愚痴を言いつつもそう仕向けた自業自得な面があるので気持ちを切り替えた感じで言うと…



お姉さんは呆れたように返していつもの面倒な事を言い始め、俺は流すように返す。




そして翌日。




ライツの国王がいつ来るか分からないので朝早くに分身の俺を行かせて国境で待っててもらう事にした。



「やーやー、お仕事ご苦労さん」


「あ、ああ…」


「…誰だ?知り合いか…?」


「いや…誰かの知り合いじゃないのか…?」



変化魔法を使ってドラゴンに変身して国境付近まで移動し…国境を警備している兵達に労いの言葉をかけながら話しかけると、兵達は困惑したような様子で不思議そうに小声で話し合う。



「俺は猟兵隊の者なんだけど、なんかライツのお偉いさんが来るみたいだから来たら呼んでくれない?」


「猟兵隊!」


「あのクライン辺境伯の私兵団の!?」


「わ、分かりました!確認次第、直ぐにお呼びいたします!」



分身の俺がふんわりとした身分を告げてお願いすると兵達は驚いたような反応をして姿勢を正し始め、兵の一人が了承する。



「上で寝てるから、声をかけるかベルかなんか鳴らしてくれれば直ぐに下りてくるよ」


「分かりました」


「一応今日来るか分からないし、時間的にもいつ来るかも分からないから引き継ぎの人にもちゃんと話を通しておいてね」


「はい!お任せ下さい!」



分身の俺は壁の上を指差しながら告げた後に念の為釘を刺すようにお願いすると兵達は姿勢を正したまま頷く。



「んじゃ、よろしく」



話は終わったので分身の俺は壁を駆け上がるように登り、座禅を組んで瞑想して時間を潰す事にした。





ーーーー





「あのー!」


「…ん?来たか」



おそらくもう少しで昼飯だろう…って時間帯に下から呼びかけの声が聞こえ、分身の俺は壁の上から飛び降りる。



「…あの、先ほど言っていたライツのお偉いさんって貴族の方ですか?」


「貴族…貴族というより王族?まあ貴族でも間違ってはないと思うけど…」


「そちらの馬車に乗っている方はライツの王族らしいですが…」


「ああ、じゃあ合ってるかも。後は俺の方で確認するよ、ありがと」



すると兵の一人が近寄ってきて小声で確認し、分身の俺は微妙な感じで否定しつつも肯定するように呟くと…別の兵が今確認中の人達の身分を教えてくれるのでとりあえずお礼を言う。

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