青年期 311

…その後。



宿屋に居た男に返事を伝え、紹介状と身分証明としてのバッジの一つを受け取って分身の俺は早速ドードルの将軍であるおじさんの下へと移動する。



「…ん?こんな時間に何の用だ、今は非常時ゆえに通行には時間制限が設けられている。また明日出直して来るんだな」


「えー…そこをなんとか。今ようやくダンジョンから戻って来たばっかで…」



都市の入口に近づくと門番のような守兵が丁寧に説明して追い返そうとするので分身の俺は魔物素材を見せながら袖の下である金を渡す。



「…ハンターか。まあいいだろう…だが門は開けられん。ついて来い」



守兵はライセンスを確認してないにも関わらず金を受け取ると非常時や連絡用として使われている狭い通口を通らせてくれた。



「…えーと…どこだったか…お。すみませーん」


「ん?なんだ?」


「ガナンド辺境伯の住まいってどちらです?コレを預かってまして…」


「…手紙?…と、コレは…騎士団の…分かった。こっちだ」



分身の俺が適当な兵に声をかけて騎士から預かったモノを見せると直ぐに理解したように案内する。



「…ココだ」


「ありがとうございます。ついでに誰かにこの紹介状を渡してくれませんか?」


「紹介状?中身を確かめても構わんか?」


「どうぞどうぞ」



…宮殿のような豪華な建物がある敷地の前に来ると兵士が到着を報せ、分身の俺が手紙を渡すと兵士は不思議そうに尋ねるので分身の俺は軽い感じで了承した。



「…なっ…!ラスタの、辺境伯…だって!?」


「そうそう」


「しょ、少々お待ちください!」



紹介状の中身を読むと兵士は驚いたように姿勢を正して確認し、分身の俺が肯定すると直ぐに門の前に居る衛兵の下へと話を通しに行く。



…すると、あれよあれよと話が進み…門が開いて敷地内へと入ると建物の方から案内役の騎士が慌てた様子で走って来る。



「団長殿。久しぶりだな」


「こんな遅い時間にすみません。朝まで待とうとも思いましたが…ギリギリ間に合うなら、なるべく早い方が良いかと判断いたしました」


「いや、素晴らしい判断だ。早いに越した事は無い…時間は有限なのだからな」



建物に入って直ぐ将軍でもあるおじさんが出迎えてくれ、分身の俺が謝罪から入るとおじさんは拒否するようにフォローしてくれた。



「しかし予想よりもかなり早い到着だ…使いの者はそろそろ国境に着く頃だと思っていたのだが」


「ちょうど辺境伯の所で会いましてね。公爵が本腰を入れている…という噂を耳にして見に行ってみれば将軍の部下に声をかけられました」


「そうか。こちらとしてはこれ以上に無いタイミングでの幸運だったわけだ」



おじさんの不思議そうな顔での意外そうな発言に分身の俺が説明するように話すとおじさんは笑って返す。



「しかし…まさか本当に来てくれるとは思わなかったぞ。アンヘレナ公爵がラスタの国境に向けて大規模な軍事行動を開始した、と聞いた時には断られる前提で話を進めていたが…」


「まあバレたらこれ幸いと周りから叩かれるでしょうね。今まさに領土を奪いに来てる敵国に援軍として赴くのは常識的に考えて正気の沙汰では無いはずですから」


「…単なる好奇心で聞くが、ソレを承知の上で何故要請に応じたのだ?」



おじさんは歩きながら意外そうに言い、分身の俺が軽い感じで冗談のように返すとおじさんが前置きをして尋ねてくる。



「自分も単なる好奇心です。あと個人的に友人を助けに…友人の下へと遊びに行くという理由なら言い訳になるかな、と」



猟兵隊や軍を動かさなければどうとでも逃げられますし。と、分身の俺は本音を話した後にたった今思いついた適当な事を告げた。



「ははは!自由だ。『ラスタの守護者』と呼ばれラスタ北方の広大な領地を治める大貴族とは思えんほどの身軽さ…私のような立場や地位に縛られる者からすればあまりに眩しく、そしてとても羨ましい限りよ」


「周りが頑張ってくれているおかげで自分が居なくとも全く問題は起きませんからね。むしろ自分は邪魔だとさえ思われてるかもしれません」


「ははは!そんな事は無いだろう」



おじさんが声を上げて笑い、自虐を混ぜて羨望を向けるかのように言うので分身の俺がボケるとおじさんはまた笑って否定する。



「…さて…では本題に入ろうか」



おじさんと雑談しながら廊下を歩き、三階の奥の部屋に入るとおじさんが切り出すように言う。



「手紙にも書いた通り今、隣国『ゴルゾーラ連邦』の一国との国境付近で部隊単位での小競り合いが起きている。現在の状況は我々の部隊が劣勢にあり…しかし援軍を送ると大規模な軍事衝突…つまり戦争に発展する可能性が高く、ロムニアやラスタとの状況からするにソレは避けたいと言うのが我々の現在の方針だ」



おじさんは玉座のような椅子に座ると自らの口で現状を説明し始めた。



「部隊の人数はどれくらいですか?」


「総数でお互いに約5000だ」


「…小競り合いというには規模が少々大きい気もしますが…」


「ほとんどはお互いに100人の部隊や500人の部隊といった小規模での局地戦だ。今国境で睨み合っている主力の部隊もお互いに3000ほどで、まだ交戦には至っていないようだが」



分身の俺の確認におじさんが答え、分身の俺が微妙な顔をしながら返すと小競り合いの詳細を話す。



「…なるほど。つまり自分が猟兵隊を率いて敵の主力部隊を追い返せば他の敵兵達も撤退する、という事ですね?」


「そうだ。猟兵隊が到着し次第我々の主力部隊の数を半分に減らして対応するつもりであった」



分身の俺が作戦の内容を察して聞くとおじさんは肯定して補足するように言う。



「…残念ながら猟兵隊は呼べません。今回の件なら自分一人で十分なので」


「そうか。団長殿の判断ならば間違いはあるまい」



分身の俺の作戦を否定して変更するかのような発言におじさんは普通に受け入れて信用してるかのように返した。

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