青年期 310
…そして二日後。
西の国境にドードルが侵攻してきたとの噂が。
「はー、全く…懲りないなぁ…辺境伯と戦っても勝ち目が無いと言うのに…」
「でも流石に勝算があるから仕掛けて来たのでは?」
「そうかな?…まあなんにせよ今までのような取るに足らない小競り合いじゃないみたいだし…久しぶりに辺境伯から援軍の要請が来るかもね」
俺が呆れたように言うとお姉さんは少し警戒したように返し、俺は先の展開を予想する。
「様子を見に行くんですか?」
「ん。どの程度の戦力か分かれば要請が来るか否かも予想がつくし」
「私も行きたいではあるんですけど…午後から実験があるので下手に魔力を減らすわけにはいかないんですよね…」
「まあしょうがない。俺一人で行って来るよ」
お姉さんの問いに俺が肯定すると残念そうに同行を諦めるように呟くので俺は適当に返して変化魔法を使って分身した。
ーーーーー
「…げっ」
分身の俺がドラゴンに変身して西の国境に行くと…
どうやらドードルの公爵は今回本腰入れて侵攻に望んでいるらしく、布陣している兵の数が今までと桁違いに多い。
「…うへー…マジになったか…」
分身の俺は公爵の本気度にめんどくさ…と思いながら呟き、情報を集めるため国境から少し離れた城塞都市へと向かう。
「いやー、なんかドードルとの国境付近がえらく物々しくなってるみたいですねぇ」
「ああ。なんでもドードルの奴ら、5万の大軍で攻めて来てるそうだ」
大通りの市場で適当な店の人に話しかけると普通に噂を話してくれる。
「5万?そりゃ気合い入ってんなぁ…」
「更に3万の兵を前線に投入するって噂も聞く。しかも今も徴兵してるから長期戦になれば10万を超すとかの話も出てるらしい」
「へー…そうなると領内の兵を全て動員しないと厳しそうですね」
「一週間前に動員令が下されてたからみんな続々と国境付近に集まってるはずだ。俺達もいざとなれば徴兵されるだろうが…まあその前にいつものようにクライン辺境伯が援軍に来てくれるだろう。あの猟兵隊が負けない限り俺達の出番は無い」
分身の俺が予想外の兵数に驚きながら呟くと店の人はあくまで不確定な噂話を続け、分身の俺の想定に店の人は余裕の様子で楽観的に告げて笑う。
「なんせ1000人いれば5万の大軍勢をあっという間に殲滅させるってんだからな。猟兵隊さえ間に合えばドードルの兵達なんて直ぐに逃げ出すさ」
「なるほど…」
…店の人はめちゃくちゃ尾ひれの付きまくったあまりに過剰過ぎるあり得ない話をしてくるが、分身の俺は空気を読んで否定や訂正はせずに適当に流す。
そんなこんな情報収集をする事、数時間後。
「…あの、少々お時間よろしいでしょうか?」
夕方に差し掛かり宿屋を探していると…騎士の格好をした男が話しかけてきた。
「俺になにか用ですか?」
「…もしかして、ですが…クライン辺境伯では…?」
分身の俺が不思議に思いながら尋ねると男はキョロキョロと周りを確認すると小声で分身の俺の素性を確認してくる。
「ああ、はい。そうですけど…」
「何故ココに?今から王都近くの拠点に出向こうと思ったのですが…」
「ちょっと視察に」
「そうでしたか。ではコレを。当主様からのお手紙です」
分身の俺の肯定に男が不思議そうに尋ね、理由を話すと納得して封筒を渡して来た。
「当主?って辺境伯から?」
「はい。…コレに自分が滞在している宿屋の場所と部屋の番号が書かれております、もし急ぎの返事であればお手数をおかけいたしますがココまでお越しください」
では。と、男は紙切れを渡すと頭を下げて歩いて行く。
「…手紙とは珍しい…」
いつものなら城に呼び出しを受けるのに…と意外に思いながら分身の俺はとりあえずその場で封筒を開けて中身を読んでみる事に。
「…ん?…えっ!?」
分身の俺が手紙の内容に違和感ありまくりで不思議に思いながら読んでいくと…
手紙の最後に記されていた名前は『ガナンド辺境伯』。
この城塞都市に居を構えている『ヴォードル辺境伯』では無かった。
「…ドードルからの手紙って…ってかドードルの奴らが国境に侵攻して戦争になるってのに敵国であるドードルの奴が滞在してるってマジ…?」
分身の俺は完全に虚を突かれ、驚きながら独り言を呟く。
「…うーん…どうすっかなぁ…」
流石に今のタイミング的にコレは利敵行為になりかねず…下手をすれば売国、背信として詰められる可能性も低くはないので分身の俺は悩みながら呟いた。
「…ま、いっか」
正直ここの辺境伯が負けるなんて微塵も思わないので分身の俺は好奇心に負けてドードルの将軍の下へと行く事を決め、部下である騎士の男が泊まっている宿屋へと向かう。
「…ん?…あ、あの…もしかしてクラ……隊の団長、じゃないでしょうか?」
分身の俺が大通りを歩いてると今度はココの辺境伯である青年の部下と思わしき騎士が周りの目を気にしながら声をかけてくる。
「あ、うん」
「もう来て下さったんですか?要請はまだ検討の段階で現時点での選択肢には挙がってないと聞きましたが…」
「たまたま近くに居たから噂を聞いて野次馬として見に来ただけ」
「なるほど」
分身の俺の肯定に騎士は意外そうな感じで小声で話してきて分身の俺が適当な嘘を返すと納得した。
「あー…そうだ。ちょっと辺境伯に手紙を持ってって欲しいんだけど…」
「手紙ですか?分かりました。責任を持って騎士団長へとお渡しいたします」
「ちょっと待って………はい」
「確かにお預かりいたしました」
分身の俺は念のために青年に手紙を渡すため聞くと騎士が簡易的な忠誠のポーズを取りながら了承するので、紙とペンを取り出してドードルに行く事を簡潔に書き…将軍から来た手紙と一緒に渡す。
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