青年期 309

…それから一週間後。



「団長、若が来てるぞ」


「エーデルが?」


「…兄さん今大丈夫?」



朝食後に報告書を読んでいると自室のドアがノックされ、団員がドアを開けて報告するので俺が意外に思いながら聞くと弟が疲れた様子で部屋の中に入って来る。



「じゃあ俺はこれで」


「ご苦労さん」


「ありがとう」


「…で。なんかあったのか?えらく疲れたような顔をしてるが」



団員が出て行くのを俺と弟が労いの言葉とお礼で返し、俺は飲み物を用意しながら弟に用件を尋ねた。



「…リーゼが、手紙や会う度に『そろそろ子供が欲しい』って言って来るんだけど…」


「アイツまだ10代だろ?まあちょっと早い気もするが…ついに相手が見つかったのか?」


「だったら良かったんだけどね…というかソレじゃ僕に圧はかけてこないよ」



弟がため息を吐いて妹の事を話し始め、俺は年齢に言及しつつも喜びながら聞くと弟はまたため息を吐いて意味深な事を言う。



「…まさか」


「僕だって一応婚約者が居て、そろそろ結婚も視野に入ってくる年齢だっていうのに…『まだ子供が出来てない今の内に』ってリーゼがしつこいんだ」


「…アイツ大丈夫か?理想と現実の区別がついてないんじゃね?一応『血を残すため』って言われたら父さんや母さんも何も言えなくなるあたり狡猾というか…」


「リーゼだったら僕らが本気で拒んだり断ったら本当に死ぬまで子供を作らず独身で貫き通しそうだからかなり困るんだよね」


「…め、めんどくせー…」



俺の予想に弟が肯定するように話し、俺が妹の精神状態の異常を疑いながら呟くと弟はなんとも言えないような顔で困ったように言い…俺はつい本音をそのまま漏らす。



「兄さんなんとかリーゼを説得出来ない?」


「…無理かもしれん。リーゼがただの年齢による一時の気の迷いならばどうにかなると思うが…もし覚悟を決めていた場合、おそらく説得が通じる余地は無い」


「…兄さんで無理ならもうどうしようもないよ…」


「まあ最悪長男の俺が犠牲になるしかないな。お前は先祖代々の家名を背負ってるわけだし」



弟は無理だと思いつつ…的な雰囲気を出して確認し、否定的に返すとため息を吐くので俺は兄として汚れを被る覚悟を決めながら告げる。



「え。でも兄さんだって今や『辺境伯』っていう国の1/5の領地を治める大貴族でしょ?」


「今更悪名が一つや二つ増えようが関係ねぇよ。まあもしかしたら万が一の可能性でリーゼがそこら辺を考慮して踏み止まってくれるかもしれん」


「だと良いんだけど……じゃあリーゼの事は兄さんに任せるよ?」


「…おう…仕方ない」



弟の意外そうな返答に俺が妹に対して淡い期待を込めつつ返すと弟は微妙な表情をしながら呟き、肩の荷が降りたかのように確認するので俺は嫌々ながら了承した。



…その一週間後。



「団長。お嬢が来てるが…」


「ああ、ご苦労さん」


「お久しぶりですわ、お兄様」



自室のドアがノックされて団員が妹の来訪を告げるので労いの言葉をかけると直ぐに妹が部屋の中に入ってくる。



「二週間振りぐらいか?代行の仕事はどうだ?」


「まだまだ右も左も分からない状態ですが、サポートが手厚いので今のところは問題なく続けられそうです」


「そうか。代行達はお前の事をえらく優秀だ、って言ってたから仕事を完全に覚えるのも時間の問題だな」



俺が飲み物を用意しながら尋ねると妹は仕事の感想を言い、俺は妹の周りの人達からの評価を伝えた。



「それでお兄様。兄様から手紙が来ましたが…私の考えを了承していただけるのですね?」


「…まあ条件付きでな」



妹の嬉しそうな確認に俺は万が一の念の為の保険をかけるためと悪あがきをするように返す。



「…条件?」


「とりあえず絶対に子育てを放棄しない、なるべく仕事に支障をきたさない、絶対子供を虐待しない事だ」


「ありえないですわ。私が望んで産んだ子を雑に扱うなど…」



妹は不思議そうな顔をした後に俺が内容を告げるとまるで一蹴するように断言して呟く。



「お前が一時の気の迷いで無ければありえないだろうな、年齢による一時の気の迷いで無ければ」


「…今の私の精神状態が異常だと?」


「確信は無いし、断言はしないが、疑ってはいる。俺は人の考えを予想や想定は出来ても心が読めるわけじゃないからな…特に今回のは失敗が許されない事で、やらかすと取り返しのつかないヤツだ。いつものように簡単には決められず慎重にもなるってもんだ」


「…それは…」



俺の釘を刺すような強調に妹がめんどくさい確認をしてくるので俺は誤解やすれ違いを生まないよう内心の考えを全部言葉にして話した。



「今のお前の選択を将来のお前が後悔しないという保証は一切無い。だからこそもし後悔した時のために今の内に覚悟を決めろ」


「将来の私ならば絶対に後悔はしないと断言出来ます。どれだけ時間が経とうとも私は私、ソレに変わりはありませんわ」


「…そうか」



俺が人生の先輩としてアドバイスを送るも妹は本質を全く理解してないように返し、俺は人生経験の浅い若者にはこれ以上何を言っても無駄だな…と諦めの境地に至って呟く。



「人間、何事も経験だからな…良くも悪くも…まあお前がソレで良いんならもう何も言わん。一応俺が協力はしてやるよ」


「ありがとうございますお兄様!」



俺のため息を吐いての発言に妹は喜びのあまり立ち上がってお礼を言う。

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